メール依存で生じるもう1つの弊害は、「
対面時のコミュニケーションスキルの低下」だ。
以前筆者が経営に携わっていた工場の採用面接に、カンニングペーパーを片手にやって来た20代前半の青年がいた。前日までにやりとりしていたメールの文面は、饒舌そのもの。職人要員の募集だったため、「最適な人材」として採用したのだが、結局、他の職人となじめず、3か月ほどで来なくなり、その数週間後、これまた饒舌な「退職願」がメールで送られてきた。
メールやSNSでのコミュニケーションに依存すると、相手の反応を伺いながらやりとりする対面コミュニケーションスキルが低下する。前出の彼も然り、上司にLINEで「退職願」を提出してしまう新入社員は、生まれた時からインターネットが当たり前のように存在していたため、対面と文面の境が曖昧になりがちになるのかもしれない。
現在、企業内研修にEQ診断テストを積極的に取り入れている企業には、横とのコミュニケーションが取りにくい大企業の他、対面でのコミュニケーションを取る機会が比較的少ない研究職、技術職、IT関連の中堅企業や医療機関が目立つ。
今回の「働き方改革」にも、コミュニケーションツールとしてメールや電話が活躍する「テレワーク」が推進されるなど、ネット社会を生きる我々には、対面はもちろん、「非対面」の場においても高いEQを持ち合わせている必要がある。
コミュニケーション不全が生じやすい環境が増えていく中で、いかに自他の感情をコントロールし、誤解やストレスなく真意を伝え、労働生産性を向上させられるかは、「企業全体のEQ」をいかに高められるかにかかっているのだ。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。