働き方が多様化する中、いかなるビジネスシーンにおいても最重要視されるのが、
コミュニケーションスキルだ。経団連が昨年行ったアンケート調査では、企業が採用時に重視する要素の1位は、
15年連続で「コミュニケーション能力」となっている。
EQが高い人は、このコミュニケーション能力も総じて高い。それゆえ、昨今のEQに対する注目度からすると、社会全体のコミュニケーション能力も底上げされていいところだが、現状はむしろ「
職場の雰囲気が悪い」と叫ぶ社員が急増している。
アメリカのSMB Communicationがかつて行った調査では、社内コミュニケーションの不活性による生産性の損失は、従業員1人当たり年間
約2万6,000ドル(約286万円)。不活性なコミュニケーションによるストレスが原因で、社員が精神疾患に陥ったり、離職したりなどすれば、その損失は無論さらに拡大する。それゆえ、社内コミュニケーションの活性化は、チームや部署ではなく、会社をあげて取り組まねばならない重要な課題なのだ。
日本の人事調査機関であるHR総研が、2016年に国内229社の人事担当者へ行ったアンケート調査によると、「コミュニケーション不足は業務の障害になるか」という問いに、
97%が「なる」と回答。
80%近くの人が、「社内のコミュニケーションに課題がある」と感じているという。
その中には、
「ベテランから若手への暗黙知の継承が少ない」
「空気を読んで自己業務の効率性を優先し、他人との健全なぶつかり合いを避ける。特に役職者等に傾聴力、謙虚さが欠けていた場合、『言っても無駄』、『思考停止』に陥り易い」
といった声があったという。
こうした時代を選ばず聞こえてくる「
縦割りの企業風土」や、「
社員間のジェネレーションギャップ」以外にも、近年では「
対面コミュニケーションの減少」や「
コミュニケーションスキルの低下」、「
ITツールへの依存」などがコミュニケーションの大きな弊害になっている。
これらすべての要素を有し、働く現代人を悩ませているのが「メール依存」だ。
一般社団法人日本ビジネスメール協会が昨年行ったアンケート調査によると、ホワイトカラーが仕事で使っているコミュニケーション手段の中で、一番多いのが
「メール」。その割合は、実に
99.08%にも及ぶ。一方、最も容易に本質的なやりとりができるはずの「対面(直接会う)」は
74.07%で、その差は25ポイントにもなる。
仕事で1日にやりとりされるメールの平均通数は、送信が約12.6通、受信は約39.3通。役職が高くなるにつれて、その通数は増える傾向にある。
メールを作成するのにかかる時間をみてみると、1通平均約6分。10分以上かかっている人も25%いる。
メールに依存することで生じるコミュニケーション不全には、大きく分けて2つある。
1つは、メールそのものにある真意の伝わりにくさだ。
顔色が見えない
「文字」だけのコミュニケーションでは、自分自身にとっても相手にとっても、メールの文面だけが互いのEQを知る“判断材料”となる。
ビジネスメールには、小さな反応や間(ま)を取り入れにくい。カチッとした定型文をもとに、相手が送ってきた「薄色付きの質問」に合う“同系色の回答”を入れ込まねばならず、メールでのコミュニケーションには、
対面時以上に高いEQが要求される。
ところが、これほど難しいコミュニケーションツールであるにもかかわらず、社内にビジネスメールに関する社員研修が「ある」と答えたのは、わずか
10.3%。9割もの人が、メールに関する社内研修を受けたことがないのだ。
そのため、自分の送信したメールに対して、「正しく伝わるか」と不安を抱く人は
68.3%もおり、受け取ったメールに不快感を抱いたことがある人も
43%いる。こうして送受双方に生じた小さな「感情のズレ」が、やがていらぬストレスや誤解、トラブルへと発展することも少なくない。