セネガル戦でまたも「旭日旗」。日本代表を応援するのに旭日旗を出すべきではないこれだけの理由

AFCに強い影響力をもつ東南アジアと戦争の記憶

 そのAFCに強い影響力をもつ東南アジアの国々は第二次世界大戦の記憶をいまだ忘れることなく語り続けている。  日本の右派サイドの主張やネットの議論によると、アジアの人たちは第二次世界大戦で「日本が戦ってくれたことを感謝して」いるとのことだが、確かにそういう論調は東南アジアの国々の一部にはないとはいえないものの、一般の人々の反応の大勢は、日本の東南アジアへの侵略は極めてネガティブなイメージしかない。  また、東南アジアの国定歴史教科書や歴史博物館のような「正史」を語る場では、日本がプロパガンダとして東南アジアの国々に押し付けた「大東亜共栄圏」の意味を、極めて正確に語っている。曰く、「日本が東南アジアにやってきたとき最初は植民地支配から脱出できると歓迎したが、欧州の支配より日本のほうがより苛烈であり、たくさんの人たちが殺された。大東亜共栄圏と日本は言っていたが、その実態は日本人による支配であり、私たちは天皇の崇拝を押し付けられた。」  旭日旗はこの象徴として機能していることは、この大東亜共栄圏の記憶を語る場で、必ずと言っていいほど旭日旗の意匠が使われていることからはっきりしてとわかる。海軍の軍艦旗や陸軍の連隊旗として戦場で使われてきた旭日旗は、そもそも当時のアジアの人たちはそんなに見ることはなかった。では、これがなぜそこまで日本の侵略の象徴となっているかといえば、この大東亜共栄圏のプロパガンダで日本自ら、大々的にシンボルとしてきたからだ。  私は、マレーシアとその隣国でもともとマレーシア連邦の一部だったシンガポールで、旭日旗のイメージとスポーツの場での使用について、現地の人たちにインタビューやアンケートを多数行ってきた。そこでの結果は、過半数の人たちが否定的な見解を記している。なぜ、スポーツの場でそのようなものを使うのか意味が分からないし、日本国旗で十分ではないかというものだ。  東南アジアの人々だけではなく、日本軍は東南アジアを支配していたイギリスやオランダ、さらにはオーストラリアといった国の捕虜にもひどい扱いをしてきた。今でもイギリスやオランダでは日本といえば、この捕虜虐待のイメージから語られることも多い。事あるごとにイギリスのメディアが日本の人権問題について言及するのは、おそらくこの捕虜虐待のイメージがまだ引きずっているからだろう。そのイギリスがこの第二次世界の日本軍による捕虜虐待について語る時、次のように言う。 「Forgive but never forget(赦そう、しかし決して忘れない)

旭日旗は忘れられていない

 先に触れた筆者によるインタビューやアンケートでは、それでも旭日旗は問題ないし、デザイン的に悪くはないという意見もいくつかあった。もう日本軍の記憶が薄れてきている若者や国家の歴史教育から遠い位置にいる人々には旭日旗にネガティブな印象をもつ傾向は弱い。実際、マレーシアでもフィリピンでも比較的日本軍による占領統治が緩かったところでは、日本食のレストランやクルマに貼るステッカーに旭日旗の意匠が使われていることがある。  例えば、マレーシアの首相を長らく務め、先日にまた首相に返り咲いたマハティールは「ルック・イースト政策」で親日家で知られている。このマハティールの地元は北部のクダー州であるが、ここは日本のマレー作戦からほどなくタイに割譲されており、直接日本軍による統治が緩かったところだ。また日本軍はイギリス式に民族を分断した統治をしたため、マレー人はさほど苛烈な統治は受けなかった。それでも、マハティールは日本の憲兵による公開拷問や捕虜の処刑を目撃していて、これは当人の回顧録に書かれている。なお、『マハティールの履歴書』という本はこの回想録の日本語版だが、抄訳であるからか、この部分は削除されている。  シンガポールの首相をマハティール以上に長く勤め、現在のアジア屈指の経済繁栄を築いたリー・クアンユーは、マハティールの政敵だが、彼はマレー人ではなく華人だったため、シンガポールで日本軍に粛清されかけた。今でもシンガポールで語り継がれる「大粛清(ソックチン)」、いわゆるシンガポール華僑粛清事件である。間一髪で、この粛清から逃げ延びたリー・クアンユー率いたシンガポールは、国家の歴史教育において強く日本の過去に対して批判的だ。だが、彼も現実主義者であり、小さなシンガポールという都市国家を生き延びされるために、日本と友好関係を結んだ。彼も「赦そう、しかし決して忘れない」ということなのだ。マレーシアもシンガポールも、国の歴史として大東亜共栄圏の悲惨な歴史をつづり、しかし今の平和で経済的に進んだ日本とは友好関係を取り結んでいる。この事情は、フィリピンでもインドネシアでも同じだ。
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「アジアの国々は感謝してる」のか?
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