「不法移民親子分断」に非難殺到。トランプは不法移民が米国に向かわざるを得ない理由を知るべき

なぜ彼らはそれでもアメリカを目指すのか

 この問題の根底には米国への移民を危険を犯してまでそれに挑まざるを得ない事情を知る必要がある。米国への不法移民者の多くが、メキシコ、エル・サルバドル、ホンジュラス、グアテマラの出身者である。  エル・サルバドルの政治家で、来年2月の大統領選に出馬する可能性のあるナイーブ・ブケレが5月にマドリードを訪問して同郷人との会合に出席した際に、『El País』が彼にインタビューした時に次のようなことを語っている。 “「今年4月に中米から1000人以上がメキシコを経由して米国に向かった。亡命を申請する為だ。その中に、犯罪グループによる暴力から逃れようとしたエル・サルバドル人もいた」” “「我が国(※エル・サルバドル)で横行している暴力の度合いは戦時下のそれと同等のレベルにある(戦争のない)5か国の一つだ。いや、我が国のそれは戦時下にある国を勝るほどである」”  結局、このときに、エル・サルバドルから出国して米国に向かったのは、トランプ大統領が国境に軍隊を派遣して警備に当たらせるというのが脅威になったために、150人程度だったそうだ。  しかも、エル・サルバドルで犯罪が横行している要因、すなわちその背景にある暴力グループというのは、かつて米国に不法移民していた時にそこで犯罪を覚え送還させられて、仕事もないエル・サルバドルで暴力や麻薬などを蔓延らせ、市民を恐喝したりしている連中なのである。全国レベルで彼らの犯罪が広まった後、隣国にもかれらのような犯罪グループが普及しつつあるという。  更に、ナイーブ・ブケレは“「日毎に200-300人が移民で仕方なく出国している」”と語り、彼らの中には“「銃を頭に突き付けられて、出て行くように脅迫された者もいる。しかも、エル・サルバドルには仕事もない。だから家族を養うこともできない」”と言って、国が置かれている状況を説明した。“「それに加えて、日毎に12~14人が殺害されている」”と語ってエル・サルバドルが置かている窮状を説明した。 『El País』の6月20日付では、メキシコでカルテルが蔓延っている自治州のひとつミチュアカン州アパシンガン市のラファエル・カスティーリョ一家が米国への移民に挑戦する近況を伝えている。メキシコはGDPにおいてラテンアメリカでブラジルに次ぐ2番目の位置にあるが、統計では人口の半分は貧困者だとされている。特にカルテルの蔓延る地方での経済成長は容易ではない。その様な事情から米国への不法でも移民する者が多数いる。  ラファエル・カスティーリョ一家が米国に移民することを決めたのも、殺害されることを恐れての移民なのである。彼の二人の兄弟は彼らの両親の前で殺し屋の拳銃に打たれて死亡。それはラファエルが彼らと別れた10分後の出来事だったという。  移民を望んでいる多くの者が行うように、彼らもカリフォルニアで指定された入国の為の港に到着して亡命の申請をするのである。そして、そこで亡命を望んでいる理由を説明する。亡命者として受け入れられるか否かは不明だ。また、3人の子供が親から引き離されるか否かも不明。しかし、ミチュアカンに戻ることは殺害されることを覚悟しての帰国となるのである。  トランプ大統領は、単に不法移民を犯罪者として断定し、子供と親を分断させる非道まで行っていた。しかし、本当に不法移民たちはトランプが考えるように単純な「悪」なのではない。  移民を望んでいる大半の者は生活苦か殺害されることを恐れて仕方なく家族を抱えて冒険に挑んでいる。この事情をトランプも知るべきであろう。

日本でも同じことが起きている

 ちなみに、アメリカでは大問題となったが、ここ日本でも難民申請者を含む入管に収容された外国人が、分断政策以上に酷い目にあっていることは本サイトでもたびたび取り上げている。(参照:「集団暴力、無期限拘束……。あまりに酷い、入管収容所における外国人虐待の実態」、「国際法原則も人権も無視の東京入管の非道! 22歳のクルド難民女性が理由も示されず3か月以上拘束、収容所内で衰弱」、「相次ぐ外国人収容者の死。牛久の東日本入国管理センターで何が起きているか」)しかし、日本は政権はこの状況を改善しようとさえしていないし、この状況に非難の声をあげるメディアや有名人、保守政党政治家も圧倒的に少ないのが現状だ。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会