月の支出は5万円だけ。「脱・会社」「脱・消費」「脱・東京」の果に辿り着いた生活とは?「退職者量産バー」元店主の移住生活に迫る

移住後、1か月の俺1人の支出は約5万円だけ。楽しく、気楽な生活を実現

田植え

我が家の田んぼの田植え。年間約150kgの収量がある

 さてさて、このような暮らしをどう思われるだろうか? 貧しい? 見すぼらしい? 質素倹約?  モノが少ないと、部屋がキレイでオシャレにしやすく、維持もラク。気分で模様替えがすぐできる。掃除もはかどる。一説によると「私たちの所有物は月1回以下しか使わないモノが80%」という。使わないモノのために、お金を使う、場所を使う、時間を使うって、相当マヌケだ。  よって当の本人としては、ちっとも倹約や節約している感はない。むしろケチケチするのは嫌いだ。でも、お金を使わなくたって欲しいものは手に入るし、人にあげたり、手伝ったり、施せることもあるので清々しい。さらには、新鮮でうまいもん食って、体を動かし、知恵を蓄え、怪我や病気は自分で治せて、健康すぎて困ってしまう。これでは健康保険料が丸損だ(笑)!  エコロジーやサステナブルを意識して暮らしを改善してきたことが出発点だが、今では「意識高い系」だからというよりむしろ「気持ちよい、心地よい、愉快、気楽」だからだろう。  てなことで、なんだかあまりお金が出て行かない。東京から千葉県匝瑳市に移住した2か月の支出をざっと計算してみたところ、俺1人で月5万円ほど(ただし計算には税金/年金/健康保険などは加えていない)。夫婦だったら単純に2倍にすればいい。子供がいたらそれなりに足し算すればいい。  要は、少々の稼ぎでいいので多く働く必要がない。今、仲間とNPOを営んでいて、そこで月に3万円くらいの収入がある。その他、文章を書いたり人前で話す機会をいただいたりするなど、それで月に3〜5万円になる。これらの収入だけで、ひとまず1人分の充足感ある暮らしができる。  今後はもう少し稼ぐべく、ナリワイや会社興しの準備中だが、せいぜいプラスで月10万円も収入があればヘソクリもできて上々と考えているので、気負いなく、楽しく、気楽で呑気なもんだ。  老後のことも人並み以上に学び考えているつもりだが、ま、死ぬ時は死ぬ。明日かもしれないし、100歳まで生きるかもしれない。そんなことわからない。であれば、多少でも多くの蓄えがあるに越したことはないが、そんなことよりも今を楽しんで未来へのベクトルを一歩一歩踏みしめて充足していれば、明日事故で死んでも別に後悔などない。  いざという時には延命治療はしないとか、葬儀の方法やその後のこと、かかる費用も計算して、妻や親とも互いに話し合っている。実際、半身不随の父が入院の際、延命治療の是非を医者に聞かれて、母は即答で丁重にお断りした。父本人もそれでいいと納得している。延命治療は痛い。本人が辛い思いをしても生きたいのであればいいが、俺は痛いのは嫌だ。常に今を充実させて生きて、死ぬ時は潔いのがいい。家族にとっても負担が少ない。

自分でできることが増えれば増えるほど、消費は減らしていける

手作りの器具

手前にあるのはダッチオーブン、後ろの3つは自作のロケットストーブやカマド。奥の白い門扉(カーゲート)も自作した。業者にお願いすれば10万円ほどかかるが、7000円の材料費だけで済んだ

 話が逸れた。  お金を稼ぐ必要が少なくなると、時間が増える。増えた時間で、自分でできることを増やす。増えるほど自信がつき、課題解決力が増え、不安や悩みはどんどんなくなる。  やることが増えるからヒマではない。けれど、誰かの指示でもなく、期限もなく、楽しくやることなのだから、忙しいといってもストレスがない。しかも、晴れたらDIYや農作業、雨ならパソコン向かって仕事するなど、お天気任せと自分の意思任せ。たまにはゆっくり本を読んだり、音楽を聴いたりするのも贅沢だ。  一つ、簡単な例を書こう。車のタイヤを4つ交換するとする。大手のロードサイド店でやってもらうと4000円弱だ。俺はかつて、自分でタイヤ交換ができなかった。でもやってみたら簡単で、1時間でできた。それから2年たったがトラブルはない。道具はたいていの車に付属しているから、本来は誰でもできることなのだ。  さて、Aさんが時給1000円で働いているとしよう。大手ロードサイド店でのタイヤ交換で4000円払うには4時間の労働が必要となる計算だ。店に往復する時間、待つ時間、直してもらう時間も少なく見積もって1時間としよう。店でタイヤ交換をするのに4時間の労働と1時間の無用な時間を足した合計5時間が必要だった。4000円と移動のガソリン代が財布からこぼれ落ちた。  自分でタイヤを変えた俺は、1時間だけを要した。Aさんより4時間も得した。手と腰の筋肉、経験と知恵と自信も手に入れた(体と頭を使った分、メシと昼寝は必要だが)。財布から出るものもなかった。Aさんと同じ目的を同じ時間で達成したが、俺は4時間、働く必要がないわけだ。消費依存か、自分でやるか。どっちに経済的合理性があるだろう? どっちに時間的合理性があるだろう?
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やろうと思えば誰でもできる
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