火星ヘリコプターの想像図 Image Credit: NASA/JPL-Caltech
いまやすっかり身近な存在となったドローン。平昌オリンピックの開会式では無数のドローンによる編隊飛行が世界中を魅了し、さらにAmazonやGoogleなどが自動宅配への活用を目指しているなど、その可能性はいまなお広がり続けている。
そんな中、米国航空宇宙局(NASA)は2018年5月12日、2021年に火星でヘリコプター型のドローンを飛ばすという計画を発表した。成功すれば地球以外の天体の空を、初めてドローンが舞うことになる。
このヘリ型ドローンは、「火星ヘリコプター」(Mars Helicopter)と呼ばれており、「マーズ2020」(Mars 2020)という火星探査計画の一環として行われる。マーズ2020のメインとなるのは大型の火星探査車で、火星ヘリコプターはあくまでオプション、技術実証という位置づけにある。
火星ヘリコプターを開発したのは、NASAとカリフォルニア工科大学の研究機関であるジェット推進研究所(JPL)。開発は2013年8月から始まり、4年をかけて設計と試験を繰り返し、ようやく実用化にこぎつけた。
火星の空にヘリコプターを飛ばそうとした際、最も大きな問題になるのは火星の大気の薄さである。火星の大気は地球の1%ほどで、火星の地上でも、地球にたとえると高度30kmに相当する薄さの大気しかない。
ヘリコプターは機体の上にある大きな羽根(ローター)を回転させ、空気を受けて揚力を発生させることで浮かび上がり、飛ぶことができる。しかし、大気が薄いと揚力が発生しにくくなるので、飛ぶのが難しくなる。地球上でも、高度30kmを飛べるヘリコプターは存在しない。
そこで開発チームは、「できる限り強力に、できる限り軽く」という目標を掲げて開発した。たとえばローターは二重反転と呼ばれる、上下に取り付けられた2枚の羽根が、それぞれが逆方向に回転する仕組みのものを採用している。さらにこれを、地球のヘリコプターの10倍近い猛スピードで回転できるようにした。高速回転する2枚の羽根で、どうにかして薄い大気を捉えようという努力の表れである。
さらに、ヘリコプターの胴体はソフトボール大で、質量はわずか1.8kgほどと、きわめてコンパクトなサイズに抑えられている。その中に、高性能なモーターや太陽電池、そしてマイナス100℃以下にまで冷える火星の夜を耐えるためのヒーターなどが詰め込まれている。
火星ヘリコプター(手前)と、マーズ2020探査車(奥)の想像図 Image Credit: NASA/JPL-Caltech