また、地球と火星は距離が離れているため、電波が届くには片道5~20分ほどもかかる(距離によって変わる)。そのため、ヘリコプターから送られてくる映像を見ながら操縦することはできない。
そこで火星ヘリコプターは、地球から指令を受け取ったあとは、センサーとコンピューターを使い、完全に自律して飛行することができるようになっている。
ちなみに日本でドローンというと、ローターのたくさんついたラジコン機のことを指すようになってしまっているが、本来ドローンとは、人が直接操縦することなく、自律して飛行できる飛行機のことを指す。その意味では、この火星ヘリコプターは真のドローンである。
現在のところ、マーズ2020と火星ヘリコプターの打ち上げは2020年7月の予定で、火星到着は約半年後の2021年2月に予定されている。
火星到着後、火星ヘリコプターはマーズ2020の探査車から降ろされ、探査車が適切な距離まで離れるのを待つ。そして機能の確認などを行ったあと、まず高度3mまで垂直に上昇し、30秒間のホバリング(空中で静止)を行う。
そして1か月かけて複数の飛行試験を行い、少しずつ高度と飛行距離を伸ばす。計画では地表から最高数百m以上、飛行時間90秒以上を達成することを目指すという。
火星ヘリコプターの開発の様子 Image Credit: NASA/JPL-Caltech
NASAが火星でヘリコプターを飛ばす目的は大きく2つある。
ひとつは火星探査に空からの目という、新しい視点をもたらすこと。これまでの火星探査は、火星の高度数百kmを飛ぶ衛星か、地表を走り回る探査車しかなかった。衛星からは地表の様子はおおまかにしかわからず、逆に探査車は近すぎて目の前のことしか見えない。
しかし、将来火星ヘリコプターが実用化されれば、たとえば探査車よりも先に飛んで、科学的に興味深い場所を探すことができる。あるいはこれから走る先にどんな障害物があるのかを調べ、探査車の安全な走行に役立てることもできる。
さらに、火星ヘリコプター自身が探査機となって、探査車では訪れることができない場所の上空を飛行して探査したり、着陸して直接探査したりもできる。その可能性は無限大で、火星探査が大きく、飛躍的に進むことが期待できる。
火星を飛びながら探査する火星ヘリコプターの想像図 Image Credit: NASA/JPL-Caltech