政権に批判的な学者への科研費バッシングと弁護士への懲戒請求濫発の背後に共通するもの

 研究者の研究を助成する目的で公布される「科学研究費助成事業(科研費)について、その交付を巡り「不正使用」「無駄遣い」「反日研究」などという言いがかりにも近いバッシングがSNSを中心に巻き起こっている。  この科研費バッシング、昨年末に産経新聞が日韓歴史問題を扱っている科研費課題を「反日研究」であるとした記事を出したのが発端と見られている。さらにこれを、アパホテルの「真の現代史観」懸賞論文で大賞を受賞したこともある自民党の杉田水脈衆院議員が国会で取り上げたことで火が点いて、フェミニズム研究者であり「慰安婦」問題や性と暴力の問題、それにとりくむ女性たちの運動を研究してきた大阪大学の牟田一恵教授や、民主党のブレーンを務めていたこともあり、反自民的な発言で知られる法政大学教授の山口二郎氏の研究などが「不正に使われている」などとやり玉に挙げられている。

左派ではない学者からもバッシングに疑問の声

 実際の所、このバッシングは言いがかりに近い。まず第一に、「反日的な研究に税金を使うな」ということであるが、慰安婦問題については国際的に見て戦時下における性暴力の問題として認識されている。そのため、フェミニズムの視点からそれを研究し、日本が女性の人権について真摯に考える道程を定め、世界にその姿勢を示すことは日本の国益を損なう研究だとは言えないだろう。  個人的な政治活動に使うな、とはいうが、批判の対象になっているシンポジウムはまさしく研究内容の発表の場になっている。どこにも発表しない、社会に還元しない研究ならばともかく、研究の結果を公表し、むしろ社会に広く認知させるという点では科研費の用途としてもまったく問題はないと思われる。  また、「科研費で政治的な研究をするな」と言いつつ「科研費を使うなら日本の国益にかなう研究をしろ」という批判については、「日本の国益にかなう研究」自体がすでに政治的であるがゆえに、矛盾だらけの主張だと言える。  また、金銭面での批判も然りだ。確かに、山口二郎氏の科研費研究プロジェクト「グローバリゼーション時代におけるガバナンスの変容に関する比較研究」を見ると、4億4577万円と決して少なくない金額である。しかし、これは2002年から2006年までの5年に渡るプロジェクトであり、研究分担者も5人いるかなり大きいプロジェクトだ。そんなプロジェクトの運営や成果について、山口二郎氏とは主張において決して相容れないであろう東大准教授の池内恵氏(@chutoislam)も、主義主張の立場を超えてツイートをしている。  同じく、立場的には山口二郎教授とは異なる慶應義塾大学の細谷雄一教授も、自身のブログで、”批判されている山口先生の研究プロジェクトは、該当するものは5件で、合計で58名(重複して参加している方もいますが、科研は複数のプロジェクトの経理を混ぜてはいけないので、別の経費使用となります)ですので、16年間でのべ58人で6億円相当のプロジェクトということになります。理論的に単純計算すれば、一人当たりで1030万円、これを仮に16年で割ると、一年あたりで60万円ということになりますね”と書き、”今批判されている科研費の使用。政治学者の研究で、仮に一人当たり年間で60万円程度の使用というのは、本当に異常なほどの高い額で、不必要な額で、批判されるべきものなのでしょうか?”と疑義を呈している。
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弁護士への不当懲戒請求も濫発
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