また、ロケット開発のような宇宙ベンチャーは、他と比べて多額の資金が必要で、開発過程では失敗もつきもの、さらにその失敗でお金を失うリスクも非常に高い。また、成果が出るまでに時間もかかる。
イーロン・マスク氏が立ち上げた宇宙企業であるスペースXも、2002年に設立されてから、初めて開発したロケットが打ち上げに成功するまで6年もかかった。それも、成功までには3回連続で打ち上げに失敗し、会社の資金的にもう後がないという状況に陥るも、4号機にしてようやく成功し、首の皮一枚つながったというエピソードもある。そのことから、民間ロケットの世界では、「3」というマジックナンバーがある。つまり「3回までは失敗しても大丈夫」、あるいは「それだけロケット開発は難しく、失敗を繰り返すもの」という意味である。
それから考えれば、MOMOの開発はまだまだ道半ばであり、今回のつまずきは大きな問題ではなく、むしろ「産みの苦しみ」として、どこかのタイミングで経験すべきものとも言えよう。
一般論として、今回のようなトラブルは研究・開発においては当たり前のことである。むしろ、トラブルを見抜けなかったり打ち上げを強行したりして、ロケットも信頼も失うような事故にならなかったことは、それだけ事前の検査や判断基準がしっかりしていたということであり、評価されるべきでもあろう。
もっとも、MOMOや、並行して開発されている小型衛星打ち上げ用の「ZERO」のようなロケットは、世界中で開発が進んでおり、その競争は激化している。すでに打ち上げに成功した企業もある。今回の延期やその影響で、ライバルである他社との競争が不利になる可能性はある。
しかし、急がば回れ、あるいは「うさぎと亀」の童話のように、決して望みがなくなったわけではない。MOMOを宇宙へ打ち上げること、他社との開発競争に勝つこと、そして同社の目標である「誰もが宇宙を目指せる、宇宙に手が届く未来」を実現するためには、とにかく前に向けて走り続けるしかない。
稲川氏は会見の中で「技術者として『(今回のトラブルを受けて)より良いものを造ろう』という楽しさ、やりがいも感じている。チームのモチベーションも高い」と語り、悔しさをバネにさらに大きく飛躍する意気込みを見せた。
ISTのチームのモチベーションは高いという Image Credit: インターステラテクノロジズ
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行っている。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・【IST】観測ロケット「MOMO」2号機_30日の延期に関する会見 – 2018/04/30 06:00開始 – ニコニコ生放送(
http://live.nicovideo.jp/watch/lv312809706)
・観測ロケット「MOMO」2号機の打上げ実験実施について | インターステラテクノロジズ株式会社 – Interstellar Technologies Inc.(
http://www.istellartech.com/archives/1372)
・なつのロケット団公式さんのツイート: “5月3日〜5月5日での実施を目指していた観測ロケット「MOMO」2号機の打上げ実験は、打上げ準備状況から、本ウィンドウでの実施を見送ることといたしました。 次のウィンドウは夏以降を目指しておりますが、詳細が決まり次第改めて発表いたします。”(
https://twitter.com/natsuroke/status/990887119185887233)
・観測ロケット「MOMO」2号機機体公開及び打上日に関する記者会見 – YouTube(
https://www.youtube.com/watch?v=P_2VvpGrGVo)
・IST サウンディングロケット「モモ」ユーザーズガイド(
http://www.istellartech.com/7hbym/wp-content/themes/ist/img/technology/MOMOUsersguidever.0.2.pdf)