速達性と快適性を両立し、好調なスタートを切った拝島ライナー。
だが、実は西武鉄道には6年前まで同じ「拝島」を冠する別の速達列車が走っていた。それは、2008年6月登場に登場した「拝島快速」だ。
2008年6月に登場した拝島快速。速達性には優れていたが、利用不振が続き4年で廃止されてしまった
拝島ライナーとの違いを挙げると、ごく普通のロングシート車両を使用し、追加料金が不要であったこと、西武新宿から拝島間で上下ともに運転をおこなっていたことなどがある。
しかし、最大の違いは小平以西の途中停車駅だ。拝島ライナーは拝島線内の各駅に停まるのに対し、かつての拝島快速が停車していたのは玉川上水、武蔵砂川、西武立川(全て立川市)の西側3駅のみ。萩山、小川、東大和市の東側3駅には一切停まらず、あくまで立川市内の3駅と拝島駅利用者の速達輸送に特化した形態だったのだ。
この停車駅設定は、新宿(西武新宿)から拝島間で競合するJR中央線・青梅線の快速列車「青梅特快」を意識したものと考えられ、立川市と昭島市の通勤客、拝島で接続するJR五日市線と八高線の利用客、あるいは立川(JR)、玉川上水(西武)でともに接続する多摩都市モノレールの利用者を囲い込む狙いがあったと推察される。
だが、これが裏目に出てしまった。
拝島快速が通過した東側3駅のうち、萩山と小川はそれぞれ西武多摩湖線、西武国分寺線と接続し、乗り換え利用者が多いのだ。東大和市に関しては、その名の通り人口8万人を誇るベッドタウン・東大和市の中心駅であり、近くには大型商業施設もあることから、こちらも拝島線内では比較的利用者が多い。
拝島快速が通過していた東大和市の駅前のようす。駐輪された自転車の数が駅利用者の多さを物語る
一定の利用者が期待できたはずの3駅を通過し、さらには乗降客数5万人を超える新宿線花小金井駅までもスルーしてしまったことで、拝島快速は「空気輸送」状態となることさえあった。
そして、利用不振を極めた拝島快速は、導入から4年後の2012年6月に廃止されてしまった。
拝島快速の失敗から6年ぶりに「拝島」を冠する速達列車として登場した拝島ライナーは、拝島線内ではしっかりと全駅に停車。
拝島快速と同じ轍を踏まず、高田馬場から小平間の速達性と「必ず座って帰れる」快適性という新たな付加価値を搭載した拝島ライナーは、西武鉄道が挫折の中で導き出した最適解といえよう。
北多摩の“毛細血管”つなぐ拝島線