では、このように大きな影響力を持ったメディア企業「シンクレア」とは、いったいどんな企業なのか?
メリーランド州に本社を置く「シンクレア・ブロードキャスト・グループ」は、中西部や南部を中心に、全米最大の193局を保有する大企業。その歴史は古くはラジオ局を設立した’58年までさかのぼる。’71年には「チェサピーク・テレビジョン・コーポレーション」としてメリーランド州ボルチモアにテレビ局「WBFF」を開設。’85年に現在の「シンクレア・ブロードキャスト・グループ」へと改称した。同社は創業者であるジュリアン・シンクレア・スミス(’21年〜’93年)の家族によって経営されている。
トランプ大統領と「シンクレア」の蜜月関係は今に始まったことではない。‘16年12月には当時大統領候補だったトランプの義理の息子ジャレッド・クシュナーが、「シンクレア」の系列局で共和党候補者のインタビューを放送する代わりに、大統領選キャンペーンへの長期的なアクセスを提供すると発表。同月、『ワシントンポスト紙』は「シンクレア」がトランプに対して中立、もしくは好意的な報道を、他の候補者についての報道よりも多く放送していたと明かした。
また、’17年には、報道の自由を求める団体「フリー・プレス」の代表が、「シンクレア」が同グループの政治評論家として、トランプの大統領選に協力していたボリス・エプスタインを迎え入れたことを批判している。
以前から、トランプとの密接な関係が指摘されてきた「シンクレア」。今回の「トランプのプロパガンダを放送している」という意見に対し、会長のデビッド・スミスは『
ニューヨーク誌』へのメールで次のように反論している。
「活字メディアは無意味な戯言になってしまうほど左翼的で、それが業界を衰退させている原因だ。とにかく信頼性がない」
これまでも主要メディアに対して「フェイクニュース」を連呼してきたトランプ大統領だが、大手ネットワークがそれに同調したことで、溝はますます深まる可能性が高くなった。