日本の小型ロケット「イプシロン」3号機、打ち上げ成功。その実力と未来、そして欠点とは?

鳥嶋真也

イプシロンの今後

 強化型イプシロンの開発が一段落したことで、イプシロンの今後は、大きく2つの新しい段階を迎えることになる。

 ひとつは、イプシロンの機体を、現在開発中の別の大型ロケット「H3」と共有させることで、コストダウンや信頼性向上を図るというもので、共有するということやH3側にも同様の恩恵があることなどから、「シナジー・イプシロン」と呼ばれている。すでにJAXAを中心に開発が始まっており、実現すれば、打ち上げコストは現在の約40億円から30億円にまで下がる見通しだという。

 そしてもうひとつは、イプシロンを商業ロケットとして、民間企業が一元的に運用できるようにすることである。

 現在のイプシロンはJAXAが主体となって運用しているが、これを民間の手に委ねることで、イプシロンを使った打ち上げサービスを国内外の企業や機関に向けて販売し、発注を受けてその衛星を宇宙に打ち上げる、打ち上げ輸送サービス、いわゆる「商業打ち上げ」を事業として始められることになる。

 その事業者はまだ選定中で決まっていないが、ロケットを製造しているIHIエアロスペースが主体的に関わるか、もしくは販売や運用を行うための別会社が立ち上げられる形になろう。

 近年、電子部品の小型化、高性能化などを背景に、数百kgからわずか数kgでも、十分な性能をもった衛星が造れるようになり、こうした小型・超小型衛星と、それを使った宇宙利用が、宇宙ビジネスのトレンドのひとつになっている。今回打ち上げられたASNARO-2も、まさにそうした狙いをもって開発されたものである。

 そして小型ロケットであるイプシロンは、こうした小型衛星の需要、市場にマッチしている。

「イプシロン」ロケット3号機で打ち上げられた高性能小型レーダー衛星「ASNARO-2」(筆者撮影)

商業打ち上げへの道は険しく

 しかし、だからといってイプシロンがすぐに売れっ子になる見込みがあるわけではない。イプシロンに性能が近い小型ロケット、あるいは市場で競合するロケットは他国にいくつもあり、いずれも高い信頼性をもっているなど、商業打ち上げ市場にはすでに多くのライバルがひしめいているためである。

 たとえば欧州の「ヴェガ」ロケットは、すでに11機もの打ち上げをこなし、すべて成功を収めている。信頼性、価格面で他のロケットに負けない強みがあり、すでに他国からの商業打ち上げも受注しているなど、実績もある。

欧州の小型ロケット「ヴェガ」。すでに11機の打ち上げにすべて成功しており、イプシロンのライバルとなる Image Credit: ESA

 また、小型衛星は小型であるがゆえに、中型ロケットに複数搭載したり、大型ロケットの打ち上げ時にあまったスペースについでに載せて打ち上げたりといったことができる。打ち上げる時期や軌道が選べないという問題はあるものの、それを気にしないのであれば、イプシロンのような小型ロケットを使うより安上がりに済む。

 たとえばインドの「PSLV」ロケットは中型ロケットで、イプシロンより3倍近い大きな打ち上げ能力をもつが、小型・超小型の衛星を最大100機も同時に打ち上げられる能力、そしてインドならではの低価格を最大の武器として、世界中の衛星会社から商業打ち上げ受注を取り付け、打ち上げをこなしている。

 ちなみにイプシロンにも、小型・超小型衛星を複数打ち上げられる能力がある(4号機で実証予定)。これはこれでひとつの強みになりうる一方で、近年では、イプシロンよりもさらに打ち上げ能力の小さい「超小型ロケット」の開発も活発になっている。

 超小型ロケットは数十kgから100kgくらいの打ち上げ能力しかないが、たとえばイプシロンなら数機まとめて打ち上げられるものを、1機だけ、それも好きな時期に好きな軌道へ、そして安価に打ち上げるという売り方で、新たな需要、市場を呼び起こそうとしている。

 こうした中で、イプシロンが商業打ち上げ市場でシェアを取るためには、似た性能のロケットだけでなく、中型・大型ロケット、そしてこれから登場する超小型ロケットとも戦っていかなくてはならない。そのためには、ロケットの価格や信頼性を他のロケット並み、あるいはそれ以上にすることはもちろん、顧客の要望に応えられる柔軟性や、イプシロンならではの魅力を創出するといった施策が必要となろう。

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イプシロンが抱える弱点

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