というわけで、この件について整理すると、ベッキーが蹴られたのは「逆ドッキリに引っかかったから」だというのがごく普通の見方だ。 　制作者や出演者が「不倫をした女性は蹴られるぐらいの罰を受けるべきだ」などと本気で思っていたわけではないし、この場面からそういうメッセージを読み込む視聴者はあまり多くはないのではないかと思う。 「女性が蹴られるのを男性たちが取り囲んで笑って見ているのがひどい」というような意見もあったが、この場面を注意深く見てみると、レギュラー陣はみんなベッキーの身を案じて優しい言葉をかけている。「お前は不倫したんだから蹴られて当然なんだよ」とあざ笑うような態度を取っている人は（当たり前だが）1人もいない。 　百歩譲って、制作者側に落ち度があるとすれば、「禊のタイキック」という誤解を招く可能性のあるテロップを入れてしまったことぐらいだろう。 　しかし、これに関しても、バラエティタレントであるベッキーが「不倫騒動」をネタにされる「不倫キャラ」であることを考えれば、それほど悪意のある演出であるとは思えない。 　むしろ、ベッキー本人はラジオ番組でこの件について「逆ドッキリされるのはタレントとして本当にありがたい」という趣旨の発言をしている。 　そう、これはバラエティ番組の歴史の中で何百回も何千回も行われてきた「逆ドッキリ」の一例にすぎない。ベッキーの尻蹴りは「逆ドッキリ」だというのが平均的なバラエティ視聴者の見方であり、「不倫をした女性への制裁」と考えるのはかなりうがった見方なのだ。 　それよりも、私が今回の件で率直に思ったのは「ベッキーさんはまだまだ清純派のタレントというイメージが強いんだなあ」ということだ。 　ヨゴレ役をあまり引き受けない感じのするベッキーが蹴られていたからこそ、それが普段あまりバラエティ番組を見ていない人にとっては衝撃的な映像に見えてしまったのだろう。 　ただ、一視聴者としての素朴な感覚で言うと、ベッキーはバラエティ番組を主戦場とする優秀なバラエティタレントであり、このぐらいのことは当然やってくれる、と思っている。 　ベッキーが蹴られて苦しむ姿が、バラエティ番組を見慣れていない人にとって本当に痛そうでかわいそうに見えたのだとしたら、それは彼女の「リアクション芸」が一流だったという証でもあるのだ。 【ラリー遠田】 お笑い評論家。東京大学卒業後、テレビ制作会社勤務を経てライターに。漫画原作者、行政書士としても活動。株式会社シンプルトーク代表取締役。『AERA dot.』『日経ウーマンオンライン』『ヤングアニマル嵐』などで連載。『オモプラッタ』編集長も務める。公式ブログ「おわライター疾走」