外資系産業医が明かす、今年も「過労死のニュース」がなくならない原因
これまで1万人以上を面談した産業医の武神健之です。新年が始まって早々、新潟県教育委員会の40代女性職員が1月5日の勤務中に倒れ、その後、死亡していたことがわかりました(参照:上毛新聞「新潟県教委職員、過労死か 先月の時間外120時間超」)
この方の時間外労働は、昨年11月は約100時間、12月は約120時間で、国が「過労死ライン」とする月100時間を超えており、12月には産業医による健康相談を受けていたとのことです。
まず、亡くなられた社員のご冥福をお祈りします。
昨年の法改正で6月以降、企業は時間外労働が100時間を超える社員の名簿を産業医に提示することが義務となったばかりのこのニュース、企業の人事担当者は、我が社はどうすればいいの?と頭を悩ましているに違いありません。
私は、最近の過労死関連のニュースは毎回、残業時間ばかりが注目されすぎているように感じます。’16年の電通事件の際に、私はこの事件の本質は「長時間労働よりも上司のパワーハラスメント」だと述べさせていただきました。しかしながら、多くのニュース媒体では残業時間の方が注目されました。
そして、昨年夏に電通が発表したこれからの電通の働き方改革で指針である「労働環境改革基本計画」では、残業時間の抑制についてたくさん書かれていましたが、ハラスメントはほとんど取り上げておらず、「結局、電通は変わらないのではないか」と懸念を述べさせていただきました。
残業時間は数字であるがゆえに客観的でわかりやすいです。また、異なる会社でも比較可能な指標です。しかし、1万人以上の働く人と面談してきた産業医の私は断言します。残業時間にばかりこだわっている限りは、本当の残業時間は減らないし、過労死も減らないと。
私は産業医として昨年も1000人以上の働く人たちと面談をしてきました。長時間労働者との面談も多数ありました。長時間労働がいいとは考えません。しかし、長時間労働をしつつも、元気に前向きに頑張っている人たちもたくさん知っています。
そのため、私は長時間労働だけが働く人を過労死に至らせる原因とは思いません。さまざまな原因が重なり合い、今回のような悲劇になったと思います。
しかし昨今のこの手のニュースでは、長時間労働以外に焦点が当てられることがなく、その結果ニュース読者たちも残業ばかりに意識を向けてしまうと、それ以上の改革にはつながらないことを懸念しています。
長時間労働は疲労の蓄積に繋がります。
そして、疲労が高まると、健康を害する確率が高まります。私の過重労働面談では、昨年は約13%にメンタルヘルス不調だけでなく、たまりすぎた不平不満・ストレス、口唇ヘルペスやめまい、腰痛の悪化などの心と体の健康障害リスクを感じていました。
長時間労働が過労による病気や過労死になるには、さらなる疲労の蓄積があると私は考えます。個々人の疲労度が大きく左右するのです。残業時間が短くても病気になる人もいますし、残業時間が多くても大丈夫な人もいます。
そこには労働時間の長短では説明しきれない要素があるのです。
疲労度は主体的な感覚なため、人それぞれ感じ方は異なり、取り扱いが難しいです。同じ残業時間でも、潰れる人、潰れない人が出るのは、この疲労度が心身の健康障害に繋がるか否かの違いでしょう。その違いはどこにあるのでしょうか。
またも過労死のニュース
長時間労働は疲労を蓄積する
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2017.11.28
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