外資系産業医が明かす、今年も「過労死のニュース」がなくならない原因

疲労度を左右する個人の資質素質と職場環境

 その要素は、「個人の資質素質」と「職場環境」の2つだと私は考えています。  個人の資質素質とは、各社員の身体的な体力(元気度)、精神的なレジリエンス(忍耐力)などの他に、仕事に対するやりがいも含みます。  やりがいとは、一人ひとりの社員が仕事で自己成長を感じているか、職場からの評価を感じているか。時にはなぜ自分がその職場で働いているのか、その意味を認識しているかということです。  ベテランであっても周囲の評価が感じられている場合は、自己成長をさほど感じなくてもやりがいを感じることは可能です。やりがいを感じているときや自分の成長を感じているときは、人は多少の長時間労働でも疲労に負けずに過ごせます。  職場環境とは、一般的な職場環境のハード面だけでなく、チームワークやサポートのある職場なのか、残業が多いのは皆なのか自分だけなのか、上司は理解があるのか否かなど、周囲との関係性や不平不満の程度も意味します。  さらに大切なことは、その残業時間が多い状態は、いつからいつまで、どれくらいの期間続いてきたのか続いていきそうなのかという持続期間です。長時間残業は今月のプロジェクト終了とともに終わるなど、残業が減る目安が見えるか否かは、疲労の蓄積に大きく関わります。これが見えるか否かも職場環境に含まれるでしょう。  以上の要素を踏まえれば、労働時間が長くても疲労をためない働き方は、工夫次第で誰でもできます。しかし、残念なことに、今回のようなニュースから、このようなことまでを考える人はほとんどいないと思います。

残業時間以外にも注目すべき

 今回のようなニュースは、なくなることが一番です。しかし、それが起こってしまったときは、その職場環境において他の社員の残業時間の程度や、残業がたまたま発生したのか慢性的に発生している職場なのかなども、ニュースにあがり、人々の関心の対象になることが、本当に長時間労働による過労死を減らすための改革に必要と思わずにはいられませんでした。  不幸を出したこの会社(組織)だけでなく、ニュース媒体や私たち個々人にも意識改革を求めるべき余地がまだあります。1つ1つの事件を単なる他人の不幸、ブラック企業のニュースということにすることなく、全ての働く人が、自分たちの職場環境や自分だったら、として、自らの働き方を考えるきっかけにして欲しいものです。  新年早々の悲惨なニュースからそのようなことを考え、1年間の働き始めを過ごしています。 <TEXT/武神健之>
武神健之氏

武神健之

【武神健之】 たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある
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