外務省とJICAの見解は「現地では人権侵害はない」
企業との契約書を見ながら、いかに契約範囲を超えて企業が土地を奪っているかを説明する農民
ここで気になるのは、当の外務省やJICAに「人権侵害」をしているとの意識があるかどうかだ。モザンビークの小農らはこれまで4回来日し、うち3回は外務省やJICAと協議の場をもった。
その際、JICAの理事が「あなたたちは不満を言うだけで、代替案を示さないではないか」と農民を恫喝したことがある。農民はこれに対して、「では、我々が代替案を示せばそれを採用するという理解でいいのか」ときっぱりと返した。JICA理事は「No!」と叫んだあとは黙るしかなかった。
渡辺さん自身も別の機会に、外務省やJICAの職員に「私たちは、感情や推測、思想で語るのではなく、ファクトベースでしか話をしていない。契約企業が土地収奪しているのは事実で、人権侵害が起こっているのも事実です。事業は即時停止するべき」と訴えている。
ところが外務省職員は、人権侵害の主体として説明した現地政府や企業関係者に事実確認をしただけで「そういうことはありません」と漠然と答えるだけだった。「人権意識の欠如」を渡辺さんは感じたという。
「渡辺さんにビザを発給せよ」とのインターネット署名が政府を動かす!?
今年8月に、モザンビーク政府が渡辺さんのビザ発給を拒否したのは前述の通りだが、関係者は黙っていたわけではない。
インターネットの署名サイト「Change.org」では、外務省と河野太郎外務大臣に宛てた、「渡辺さんのモザンビーク入国をサポートせよ」との署名が続々と集まり、9月1日時点で4217筆が集まった。
この成果なのだろうか、9月21日、JVCの谷山博史代表にモザンビーク大使館から外務省経由で連絡が入った。
「未来永劫入国ビザを発給しないと決定したたわけではなく、今後通常の手続きに従い、日本あるいはモザンビーク大使館の所在地において査証申請できる」
改めて、ビザ発給の可能性が示唆されたのだ。渡辺さんは10月2日、改めてビザを申請した。だが――。現時点においても、ビザは発給されていない。その理由は明かされない。だが収穫はあったという。
「一般市民の声が集まれば政府を動かすんだということが実感できました。ええ、今後もモザンビーク入りを目指します」(渡辺さん)
最後に強調したい。渡辺さんが訴えたいのは、自身の入国拒否ではない。外国人の関係者である自分の入国拒否は、プロサバンナ事業に反対する現地住民への弾圧が激しくなる可能性を示唆しているということだ。
今年8月中旬、渡辺さんは南アフリカでモザンビークの小農やそれを支えるNGOメンバーらと会っているが、自身のビザ発給拒否の一件を伝えると、彼らはこう返した――。
「これは、ナオコではなく、我々への弾圧が強くなるぞという、我々へのサインだ」
そのプロサバンナ事業は日本人の税金で成り立っている。一人でも多くの日本人が本事業の在り方に関心をもってくれることを望むばかりだ。
<取材・文/樫田秀樹 写真/JVC>