伊藤詩織さん事件、もう一つの“ブラックボックス”とは?

アメリカビザ取得の困難さが生むインターン地獄

 そのほか、日米の就活への認識の違いも、この事件には大きく関わっている。日米の労働事情に詳しいジャーナリストの橋本愛喜氏は次のように話す。 「アメリカの大学生は就活する時間がないほど勉強しているので、卒業見込みとなった時点でようやく就活を始めます。そんな彼らの就活方法の一つが、『コネクション作り』。アメリカではむしろ、コネの広さや深さは、その人の能力だと評価されているんです」  若者がコネクションを最大限に駆使してポジションを得たり渡り歩くのはアメリカでは珍しいことではなく、終身雇用もない分、アメリカではむしろ奨励されるという。だが、橋本氏はこのようにも指摘する。 「ただし、万が一何事もなくテレビの海外支局に入れたとしても、むしろそこからが彼女の試練になった気がします。インターンしか経験のない人がエリートだらけの海外支局にポンと入れるのは異例中の異例なので、おそらく現地支局の直接採用という形になるかと思いますが、周囲から『裏口の人』という目で見られるのは避けられなかったでしょう」(橋本氏)  アメリカにおいて、何の後ろ盾もないところからポジションを得て、さらにビザを獲得するには、こうした「肉を切らせて骨を断つ」荒技が不可欠なのだろう。筆者自身も、友人の要請を受けなければ事件についてこのように深く考察することはなかったかもしれない。  そして、前出のA氏はこうした事情を悪用する日系企業も多いと話す。 「アメリカには多くの日系新聞社があり、当然といえば当然なのですが彼らはビザを持っていないライターは使いません。ビザスポンサーには、日本に本社があることが条件なので原則的になれない。で、人手不足にどう対処するかというと、『最先端の街ニューヨークでライティングや編集を学べる!』といったことを誘い文句に、日本から無給のインターンを募集するんです。それで、ただニューヨークに憧れるだけの新卒の若者が大金を携えて渡米しては、使い捨てられていくんです」  若者の夢に立ちはだかる“罠”には、十分気をつけてもらいたいところだ。 【安宿緑】 編集者、ライター。心理学的ニュース分析プロジェクト「Newsophia」(現在プレスタート)メンバーとして、主に朝鮮半島セクションを担当。個人ブログ
ライター、編集、翻訳者。米国心理学修士、韓国心理学会正会員。近著に「韓国の若者」(中央公論新社)。 個人ブログ
1
2
3
4
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会