音楽家の夢破れホームレスに。歯磨き粉で食事も……。異色の世界的デザイナーが「クラフトビール」に挑むワケ

「夢麦酒太田」と出合い

 その後、モデルや実業家としても活動し活躍の場を広げた片岡氏。他業界からのデザインのオファーも多く、夢麦酒太田との出合いもそのひとつだった。 「生まれ故郷である群馬県太田市に戻ってきたとき、夢麦酒太田のオーナーと出会いました。『今度はアメリカからではなく、自分が生まれた街から世界に発信するような、人々がワクワクする、そしてセンセーショナルな、俺たちにしかできないことを一緒にやろう』と、意気投合。クラフトビールブランドを立ち上げることになりました」  こうして誕生したのがクラフトビール、クロアだ。その強烈なコンセプトは、単に奇をてらったのではなく狙いがあるという。 「今や腐るほどビールメーカーがあります。そこに勝つ気や戦う気はありません。ただどこにも属さないものを作りたい。他のビールメーカーにないものを考えたとき、アダムが林檎を食べてしまったのは、林檎が好きだったのではなく、禁断のものだったから。クロアが追求しているのはそこですね。」  だからクロアは、大手含め各ビールメーカーが打ち出すあたりまえの『美味しいビール!』や『季節感』といったものは謳いません。通年であなたの禁じられた存在ででありたいのです」  また、生まれ育った太田市で錦を飾るという意気込みも見せる。 「あとは単純に、故郷である群馬県太田市で作られてるビールが美味しいということを、多くの人に知ってもらいたいですね。誰もが愛着のある定番ビールというものがあると思います。しかし、そこから『浮気をしてみませんか』という提案、それが太田市で作られたクロアというビールです」
太田市内にあるクロアの看板

見る者に強烈な印象を残す太田市内にあるクロアの看板。モデルは片岡氏本人

恋多き男が自身を投影。「浮気」というキャッチコピー

 アメリカやアジア各国で活動した片岡氏には、恋愛論がありそれがクロアの源流になっている。 「1つ言えるのは、世界のどこであっても、そこに人々がいれば必ず恋愛が生まれるということです。その形はさまざまですが、万国共通のテーマであることに変わりありません。そして、なぜか人は禁断なものに手を伸ばします。退屈な日常より情熱的な転落を選ぶ。 『ビールくらい浮気しろよ』というクロアのキャッチコピー、瓶のデザイン、ラベルが話題になりますが、これは俺なりのビールの解釈を表現したものです。そのベースには、俺の恋愛遍歴であり恋愛感があります。どうにも浮気癖が治らなくて……。正直モテるんですよ(笑)。止められないのは病気なんですかね。  何と言うか良くできた妻にはない、不健全な魅力を男はつい探し、そしてハマってしまう。クロアで言い換えると、巷で売れている良くできたビールに欠けている不健全な魅力を追求してるんですかね。ビールというフィールドで人間のサガやタブーを味とデザインでストレートに表現したものがクロアなんです」
次のページ
車もビールもあまり好きではない
1
2
3
4
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会