さらに、筆者や菅野氏に先立って、Twitterによる一方的な凍結被害に遭っていたアカウントが複数存在する。
それが、今年8月にあった「絵師大量凍結」と呼ばれる騒動である。イラスト作品を投稿するアカウントやマンガ家のアカウントが、次々と凍結されたのだ。(参照:
「絵師のtwitterアカウント凍結が相次ぐ」)
目的は不明だが、このとき、通報によって特定のアカウントを凍結に追い込む手法を広めたり、特定のマンガ家などを名指しして凍結に追い込もうとする「犯行声明」的な投稿をしたりするユーザーがいた。その方法は単純で、たとえば「死ね」「殺す」などの攻撃的なワードをターゲットの過去の投稿から探し出して、それを理由として「通報」するというものだ。
この騒ぎの中で「永久凍結」された人物の中に、やしろあずき氏という人気マンガ家がいる。やしろ氏は、
自身のブログで経緯を記している。当初、Twitter社から凍結の原因となった投稿がどれなのかすら告知されていなかったようだ。
〈普通にルール違反となるツイートを僕がしている可能性も大いにあります。Twitterルールにある「脅迫」に値するツイートですね。僕は5年ほど前、学生時代からTwitterをやっていますし、その時は友達とふざけあって過激派みたいなツイートをしていた記憶もあるので、その時のツイート内容を通報された可能性も高いと思います。〉(ブログより)
〈現状、敵意のない「死ね」とか「殺す」というワードが作品内にあるだけで通報によりアカウントを凍結されてしまうのであれば、もうTwitter上で作品を発表する事なんて怖すぎてできなくなりますし、今回の事件で凍結を簡単にさせてしまう事ができると認知された事で、心無いユーザーによって今後も凍結させられてしまう作家さんが増えていく可能性だってあります。〉(ブログより)
弁護士に依頼するなどしてTwitter社に様々なはたらきかけをした結果、1週間ほどで「永久凍結」は解除されたようだ。しかし、それは飽くまでもやしろ氏のケース。いまだ凍結を解除されていない「絵師」もいるようで、原因は不明だが現在は「格闘ゲーマーの大量凍結」という騒ぎが、Twitter内で起きているようだ。
意図的に特定ユーザーのアカウントを利用不能にするということが、いち市民にも簡単にできてしまうことがわかる。しかもそれは、通報する者にとって深刻な権利侵害が生じている場合でなくてもかまわないようだ。「死ね」と言われた本人ではない人間が「通報」することでアカウントを凍結させることも可能なのだから。
何かを批判したり、誰かにとって都合が悪い事実を投稿したわけでもないユーザーの表現の自由すら脅かされている。
絵師や筆者のケースでは、状況やタイミングから、通報者の存在を推定できることから、Twitterの通報至上主義の問題点が見えやすい。しかし、菅野完氏のケースでは、Twitter社から「永久凍結」の理由や根拠を具体的に示されていないばかりか、通報によるものなのかどうかを判断できる情報が全くない。
商売敵、思想や意見が対立する者、乱暴な言葉づかいをされて私怨を抱いている者、単なる愉快犯、宗教団体、政治団体、公権力。どのような人物や組織がどのような動機で通報したのかわからない。
たとえるなら、一度容疑をかけられれば、何の容疑なのかも容疑をかけられる理由も、それがどの法律に触れているのかも説明されないまま一方的に死刑判決を言い渡され、控訴も認められず即日執行されるようなものだ。犯罪を犯したかもしれないという通報を受けて実際どうなのかを検証することなく容疑者を皆殺しにしてしまえば、さぞかし治安の良い国ができる。Twitterがやっているのは、そういうことだ。
こうした仕組みである以上、すでにTwitterには「表現の自由」などすでにないのである。
次回、「Twitter社の凍結に先立って存在した、ネットの言論封殺」は近日公開予定!
<文/藤倉善郎(
やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:
@daily_cult ※ロック中>
ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『
「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)