2014年9月の住民投票から双方なんの歩み寄りもなく行われた、まさしく前回の繰り返しとなる10月1日の住民投票。しかし、今回決定的に違ったことは、スペイン政府が強硬にそれを阻止する方向に向かったことであった。
スペイン政府は、住民投票を阻止すべく、スペイン各地から1万人の治安機動隊と国家警察機動隊をバルセロナに召集させた。
しかし、カタルーニャには1万7000人の陣容を持つカタルーニャ自治州警察が存在している。自治州警察も警官になる時にスペイン憲法に誓って任務を遂行すると誓約する。自治州警察が投票日の早朝に投票箱を押収し投票所を封鎖するように内務省の関係管轄から指示されていた。自治州警察もそれを遂行すると約束していたのだ。
ところが、当日になると自治州警察は州政府側に付いていることを証明するかのように、投票所を僅かの警官が視察しただけであった。そこで急きょ両機動隊が投票所を封鎖する行動に出たのであるが、既にそこに集まっていた投票を望む多くの市民と衝突を招いたのであった。結局2315か所の投票所の内で440か所の投票所の投票箱が押収出来ただけに終わったのである。
投票日の数日前にも、治安機動隊は保管されていた倉庫から投票用紙を押収し、また投票者の身元確認や投票の集計が出来る情報センターの機能を停止させた。州政府はこれに対して、応急の対応として住民は指定された投票所ではなく、どの投票所でも投票できるとした。一部投票箱は表の通りに置いて投票を募るといった場面もあった。身元確認ができないことから、投票所を換えて4回投票した者もいる。それは複数の報道記者が確認している。
また、住民選挙を計画した州政府官僚らは逮捕され、その後釈放されたが、彼らが組織していた公正な選挙を行う為の選挙管理委員会も結局存在しないままで投票が行われたのである。
この様な状況での投票結果は信頼性に欠けることは明白である。しかし、州政府はそれを有効と見做し、その結果が日本でも報道された。独立支持票が90%を獲得するという結果になった。有権者数は5,343,358人で、独立支持票2,020,144票、反対票176,566票,、無効票45,586票という結果である。
住民投票の結果を踏まえて、プッチェモン州知事はカタルーニャの独立を望む市民が多数を占めたとしてカタルーニャ共和国の独立宣言を今週中に議会で承認を得て行うとした。しかし、ジュンケラス副州知事は独立宣言を早急にするのは避けたいという考えの持ち主であるという。
というのも、独立宣言をすれば、スペイン政府は憲法155条を適用して自治機能を停止させる可能性があるからである。そして、州政府閣僚は逮捕されることになる。そうなると、カタルーニャとスペインは独立と大差ないほどの分裂した状況に陥ることは必至、スペインも国家として深刻な問題に発展する恐れも出てくるからだ。ジュンケラス副知事が望んているのはこの選挙結果を踏まえてスペイン政府と対話の道を再開させたい意向のようである。(参照:「
El Confidencial」)
奇しくも、10月1日に行われたバルセロナとラス・パルマスの試合は安全を配慮して観客なしで試合が行われたが、ラス・パルマスの選手はユニフォームにスペイン国旗がプリントされたものを着用して試合に臨んだ。果たして、分断されたスペインは、関係を修復し、再びひとつの国旗のもとに集うことができるのだろうか。
<文/白石和幸 photo by AFP=時事>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。