――ネットの普及で仕事のやり方が変わったということですよね。
国友:僕も今、ほぼ仕事はデジタルなんです。しかもスタッフは遠くに住んでいて、ネットでつながってるだけ。
――え、スタジオとかないんですか?
国友:僕がまず話を考えて人物を描いて、それをデータで送って、アシスタントが手を入れて戻す、僕がそれをチェックして出版社にデータのままで行く。だから仕事部屋も僕一人のスペースしかないんです。資料部屋も作ったけど、資料って要らないんだよ、もう。ネット上で全部済んじゃうので。情報にしても絵にしても、もうネットですよ。僕とアシスタント2人とグーグル(笑)。これだけでやってる。
――めっちゃコンパクトですね。
国友:しかもね、うちはチーフがいてベタ塗りがいて、というスタイルじゃないんですよ。一枚ずつ任せてる。これをやると、その人はやりきりで何枚か描けばいいだけなんです。「その他の時間は何をしててもいいから」って言ったら、どうも他の漫画家のアシスタントやってるの(笑)。「やっていいよ」って言ってる。クオリティ高いしね、ずっとやっていてわかってるんで、指示も簡単だし。そうするとまず、画材費がゼロ。スクリーントーンとか買わないから。スタッフも呼ばないから、場所代も半分以下。飯も食わせなくていいんで、食費もいらない。経費めちゃめちゃ削減(笑)。
――いわゆるリモートワークであり、クラウドソーシングですよね。そういうスタイルでやってるベテランって、あまりいないのでは?
国友:昔から合理主義者だったので、僕はかなり前からそういう風に徐々に移行した。しかも僕のやり方は独特で。漫画には背景で<捨て絵>みたいなものがあるんですよ。背景ってスゴく面倒くさい絵なんですよ。劇画の人って、街の絵を毎回、全部アシスタントに描かせてたんですよ。しかも、アイディアに詰まると使うんですよ、面倒くさいから。スタッフはもう地獄ですよ。ずーっと細かく描いてる。もう可哀そうでさ。
でも読者から見たらこれ、街だって分かりゃいいわけでしょ? だから背景を線画で描いておいて、保存して、コピーしてまた使えばいいと思って。昔からそうしてたの。昔はコンビニとかの画質の悪い紙のコピーしかなかったんですけど、最終的に数千枚の線画が貯まっちゃった。それを分類して、<街の風景>とか<アパート>とか<室内>とか分類してたら、もう描かないでいいくらいに全部そろっちゃって
――そこまで合理化を進めていたなんて知りませんでした。
国友:デジタル化を進めた時に、「そうだ、これ取り込んじゃおう」と思って。背景画を少しずつ取り込んで、分類してインデックスつけて。それで指示してるんですよ。高解像度で取り込んで、指示はサムネイルで出す、というやり方。「街の風景Aの3番」とか。そうするとスタッフがアーカイブからひっぱってきて、「夜」って指定してあると夜にする、反転してといったら反転する。だからスタッフは線から描かなくていい。引っ張ってきて貼り込むだけ。もちろん全てではないけど、相当負担は減ります。
――無駄なことをしなくていい、ホワイトな職場だ……!
国友:しかも、読む人は誰も気づかないの。読者が1コマ見てるのって1秒以下で、子供ほど早いんですって。背景って、よっぽどのことがないと見てないんですよ。一般の読者は物語を追ってるので。
――ひょっとして、背景だけでなく人物の絵もデータベース化されてます?
国友:人物もほとんどそうなってる(笑)。人物は線画で描いたところで取り込んじゃうんですよ。それで<主人公右顔><左顔><全身>とかって分ける。もともと顔の輪郭線とかって、くせがあるので、ほとんど同じものを描いてるの。これって中を消しちゃったら同じじゃん、と思って消してみたの。そしたらやっぱり同じなんだよね。だったらコピーでいいじゃんと思って。
――ものすごい効率化ですね。
国友:たとえば濡れ場を描く時でも、立ってヤってたのをコピーして回転させたら横になってやってるように見えるとか、あるんだよね(笑)。あと反転しちゃうとか、足の形だけ変えちゃうとか。
――全く気づきませんでした!
国友:僕のような話を読ませるタイプの漫画って、クライマックスシーンと、あと流すシーンとがあるのね。会話のシーンとかって、動きがないんですよ。そうすると、絵はほぼ一緒なんです。その辺はコピペと、顔の中だけ描くとかやって、そのぶんクライマックスのシーンは力を入れて描くんですよ。