漫画家・国友やすゆき「『ジャンクボーイ』はバブルと寝た漫画だった」【あのサラリーマン漫画をもう一度】

――もちろん知ってます! 今日まさにこちらから伺おうと思っていたんですが、『幸せの時間』って、山田太一の『岸辺のアルバム』をモチーフにしてますよね? 国友:もう今なら時効だと思うから正直に言いますけど、その編集に「国友流の『岸辺のアルバム』を描かないか?」と言われた時に、「あ、そうだよね」って、一発で話が決まった。それ描きたい、それでやろう、ということになって。しかもこの時、実際に担当した若手の編集も打ち合わせができる奴で、いい感じで描けたんです。不倫と家庭崩壊。実際に描いたら、実は僕の漫画はあれが一番ウケけたんですよね。 国友先生04――『幸せの時間』はドラマ化されて社会現象化して、『ジャンクボーイ』を超えるヒットですよね。 国友:圧倒的。しかも面白いのが、今の状況に上手く乗っちゃった。『幸せの時間』って、まずコミックスがちゃんと売れて、次にコンビニ本で出したらむちゃくちゃ売れて、10何刷まで出したんですよ。 ――コンビニ本で10何刷ってあるんですか!? 国友:コンビニに並んでバーッと売れちゃった。それで今度ネットで配信したら、またドヒャーッと売れちゃって。面白かったのが、ネット配信で分かったことがあって。『漫画アクション』で大人の男たちに向けて描いてたのが、ネットで配信したら7割が20代の女なんだよ、読んでるのが。しかも、午前0時から2時にコッソリ読んでる。 ――なるほど、恥ずかしくて買えなかった人たちがネット配信で買えるようになったんですね。 国友:存在しないマーケットがあったんですよ。僕たちが知らないマーケットが。本屋では恥ずかしくて買えない。コンビニでもまだ駄目だった。でもネットなら買える。しかも口コミで広まってバーッと読まれた。 ――『幸せの時間』は中年男の欲望なのに、若い女子がそれを読むっていうのは面白いです。 国友:『幸せの時間』を描いているときに、サラリーマンのドロドロした部分をもっとお気楽にしちゃったらどうだろう、と考えたんだよね。そうしたらゴルフコンペで『週刊ポスト』の編集長に会って、なんか描きませんかと言われたので、サラリーマンが主役のライトなお色気漫画はどうですかって提案したの。それが『×一(バツイチ)』。それもそこそこヒットして、ネットでは今でも売れてて。実は『幸せの時間』と『×一』でセットなんです。しっかりしたコンセプトがあって時代とマッチングすると、ヒットするんですよね。 ※次回「第3回 構成がしっかりしていてキャラが立っていれば漫画は成立する」は近日公開予定 <取材・文/真実一郎> 【真実一郎】 ライター。サラリーマンの傍ら、『週刊SPA!』にてコラムを連載中。サラリーマンという生き方の現在過去未来をマンガを通して考えた著書『サラリーマン漫画の戦後史』(宝島社新書)も発売中
サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある
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