漫画家・国友やすゆき「『ジャンクボーイ』はバブルと寝た漫画だった」【あのサラリーマン漫画をもう一度】

 忘れられないあの漫画。そこに描かれたサラリーマン像は、我々に何を残してくれたのか。「働き方改革」が問われる今だからこそ、過去のコンテンツに描かれたサラリーマン像をもう一度見つめなおして、何かを学び取りたい。現役サラリーマンにして、週刊SPA!でサラリーマン漫画時評を連載中のライター・真実一郎氏が、「サラリーマン漫画」作者に当時の連載秘話を聞く連載企画。
国友先生03

大ヒット漫画『100億の男』創作のきっかけとは…?

 第4回目に取り上げるのは、サラリーマンを主人公にした漫画と言えばこの人、国友やすゆき先生。バブル崩壊後のサラリーマンのサバイバル状況を予見した『100億の男』、そして中年男の煩悩が哀しく炸裂する『幸せの時間』。時代ごとに異なるサラリーマンの欲望を描いてきた大ベテランは、実は働き方改革の実践者でもあった。  今回も、前回に引き続き自由奔放な出版社社員を描いたバブルの金字塔『ジャンクボーイ』について伺った。

バブルと寝た漫画『ジャンクボーイ』

――最近『ジャンクボーイ』を全巻読み直したんですが、当時のバブル景気の勢いがまるまる詰まっているというか、気持ちいいくらいに男の欲望が全開なんですよね。 国友:後から担当に「この漫画は時代と寝た漫画だよね」って言われたんだけど、本当にバブルが終わったら急に売れなくなった(笑)。でもそれくらいドライブ感のある漫画だった。この前、久しぶりに原稿を引っ張り出してfacebookにあげたら、繋がっている作家さんたちで「大ファンだった」と言ってくれた人がたくさんいて、すごく嬉しかった。同じ漫画を描いても、ただ編集に渡してお金もらってる世界と、こういうリアクションがある世界と、全然違う。その快感が忘れられない。 ――『ジャンクボーイ』って、出版社の編集部を舞台とした、広い意味でのサラリーマン漫画だと思うんですけど、この着想ってどうやって生まれたんですか? 国友:『ジャンクボーイ』って、僕が作ったというより、優秀なスーパー編集と出会ったから出来たんですよ。実はね、「劇団☆新感線」に中島かずきという脚本家がいるんだけど、中島君が当時『漫画アクション』の編集部にいて、彼が担当だったんですよ。『ジャンクボーイ』は彼と一緒に作ったんです。 ――えっ、それって公表されていることなんですか? 国友:まあ内々ではみんな知ってることなんですよ。アクションに最初に呼ばれた時に、最初は編集長が僕に弓月光さんみたいな漫画を描かせようとしたらしいの。下着メーカーの話。安易だよね(笑)。でも中島君が来て、「あれやめましょう、編集者の話をやりましょう、タイトルも『ジャンクボーイ』にしましょう」って、もう決まってるんですよ。  彼がもうコンセプトを持ってた。僕はほとんど彼に踊らされただけだったんですよ。それで500万部のヒットになっちゃった。ただね、彼とはめちゃくちゃ打ち合わせをしました。毎回7~8時間とか当たり前で。この時、改めて物語の作り方を再勉強しました。 ――500万部と言われてますが、体感ではもっとヒットしていたような印象があるんですよね。 国友:1986年かな、『ジャンクボーイ』って、電通の出してる業界誌で「今年のトレンドを最も反映している漫画」の1番に選ばれたんですよ。世の中がバブルで、マハラジャで踊って、クリスマスに3万円のディナーに行かなきゃいけない、っていう時代だったんですよ。その中で一番時代に乗ってる漫画と言われたわけだから、実際売れた部数よりも強いインパクトがあったんだと思うんです。 ――10年間苦労した後での大ヒットとなるわけですが、連載してどれくらいで手ごたえを感じましたか? 国友:連載スタートでいきなり読者アンケートが2番だったんですよ。当時の『漫画アクション』って凄く勢いがあって、相原コージ君とかジョージ秋山さん、かざま鋭二さんとか柱が4本も5本もあった。とにかくライバルがひしめいていて、そんな中でトップ5にずっと入ってたんですよ。
次のページ
編集者との出会いで生まれた『100億の男』と『幸せの時間』
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会