日本が誇るロケットの「定時打ち上げ」、その”強み”の秘密
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この延期をめぐっては、トラブルそのものより、このトラブルが原因で「オンタイム(定時)打ち上げ」の連続記録が途切れたことが注目を集めた。
ロケットの打ち上げ日時には、打ち上げ当日の打ち上げ可能な時間帯(ローンチ・ウィンドウ)と、その日以外の打ち上げ可能な期間(打ち上げ予備期間)がある。
ウィンドウや予備期間の長さは打ち上げる衛星によって異なり、ウィンドウが数時間あるときもあれば、コンマ数秒しかないこともある。予備期間も、何か月も連続してあるときもあれば、惑星探査機などは2週間~1か月ほどの間しかなく、それを逃すと次に打ち上げられるのは数年後、というような場合もある。
この予備期間の中、それも初日のウィンドウの中で、時間どおりにきっちりと打ち上げることを「オンタイム打ち上げ」という。
そしてH-IIAは、2011年8月の19号機以来、15機連続でオンタイム打ち上げを続けてきた。もちろん天候不良などの不可抗力による延期はあったものの、ロケットや地上設備が原因の、技術的なトラブルによる延期は一切なかった。この連続記録が今回、6年ぶりに止まることになったのである。
途切れた「オンタイム(定時)打ち上げ」
オンタイム打ち上げという”強み”
とはいえ、依然としてH-IIAのオンタイム打ち上げの”率”が、他国のロケットより数段高いことには変わりはない。そもそも連続記録というのはいつかは途切れるものであり、それ自体は大したことではない。将棋の藤井聡太四段が、連勝記録が途切れても相変わらず強いのと同じようなものである。
H-IIAのオンタイム打ち上げ率は、今回の延期でやや下がりはしたものの、90%をゆうに超える。一方で他国の、H-IIAよりも多くの打ち上げ実績を誇る欧州や米国のロケットは50~70%ほどにとどまっている。
実のところ、世界的にオンタイム打ち上げは、それほど重要視されている要素ではない。顧客となる衛星会社も、ロケットがどういう理由で延期したとしても、予備期間の中で打ち上げが成功さえすれば文句を言うことはない。オンタイム打ち上げというのはロケットにとっての絶対条件ではなく、「できないよりはできたほうがよい」くらいのものでしかない。
しかし、このオンタイム打ち上げがH-IIAにとって、そしてH-IIAを製造、運用する三菱重工にとって、大きな「強み」になっているのも事実である。実際に三菱重工は、記者会見などでしきりに「オンタイム打ち上げ率の高さ」をアピールしている。
他国のロケットが重要視していないこと、いつかどこかで途切れることが決まっていることを、あえて強みとして売り出すのは、余計な揚げ足を取られるリスクもあるが、メリットもある。
たとえば、オンタイム打ち上げができるということは、たとえば顧客へのサービス開始時期が決まっている通信・放送衛星や、打ち上げできる期間が決まっている惑星探査機などにとってありがたいことは言うまでもない。また、予備期間の初日にオンタイム打ち上げできる確率が高いということは、仮に遅れたとしても、少なくとも予備期間の中で打ち上げができる可能性も高いということにもなる。さらに三菱重工のロケット技術や運用体制に対する信頼にもつながる。
また、三菱重工がオンタイム打ち上げを強みとしている背景には、H-IIAは他国の同性能のロケットと比べ、打ち上げ価格が高かったり、打ち上げ回数が少なく信頼性が低かったりといった短所があるため、それを補うべく、オンタイム打ち上げ率の高さを売りにしようという狙いもある。
そしてこの強みのアピールは、今のところ功を奏している。たとえば昨年、三菱重工がアラブ首長国連邦から火星探査機の打ち上げを受注した際も、同社は「オンタイム打ち上げ率の高さが評価された結果」と分析している。
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