では、どのような基準で怒ったり叱ったりすればいいのでしょうか。
脳科学者の苫米地英人さんは著書『
「怒らない」選択法、「怒る」技術』(東邦出版)のなかで、「怒っていいときはほとんどない」と述べています。相手に向けて怒っていいのは、想定外のことで自分が不利益を被り、その過失が相手にあるときのみとすれば、よほどのことがない限り怒っていいときは少ないとのことです。
苫米地氏の唱える「怒っていいとき」というのはつまり、他人のせいにしないで自己責任、自分のせいとして、怒るよりも自分のほうを変えましょうということになります。自己反省や自己成長につなげようという発想なのではないでしょうか。
繰り返しますが、「正義は人の数だけある」のです。
自分と相手の「正義」(価値観)が異なっただけで、相手を怒ってはいけないのです。いくら怒り方のテクニックを学んでも、そもそも怒る判断基準に納得がなければ、その怒るに自己満足する人もいる一方、怒られた方には不満、ストレスが溜まってしまうのです。
だからこそ、会社という組織においては、ルール作り、明確化、その浸透と確認が有効です。メンタル不調者を続出しない上司は、個人の価値観ではなく、組織のルールに基づいて判断していることが多いのです。
しかし、残念ながら私が産業医の経験として感じるのは、まだまだルールを判断基準とせずに、自分の基準や許容範囲=価値観=正義を超えたから怒る人が多いことです。
武神健之氏
いくら怒り方のテクニックを学んでも、そもそも怒る判断基準に納得がなければ、その怒るに自己満足する人もいる一方、怒られた方には不満、ストレスが溜まってしまうのです。
では実際にどのようにすればいいのでしょうか。
メンタルヘルス不調者を出さない組織の上長たちは、叱る技術を持っています。次回、怒らずに叱る技術について、お話させていただきます。
<TEXT/武神健之>
【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『
職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『
不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『
産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある。