バルセロナ市はなぜ「突入防止用障害物」導入要請を受け入れなかったのか?

El Mundo紙による報道

障害物を設置しなかった問題について報じる「El Mundo」紙

 スペインの第二都市バルセロナ、ラス・ランブラス通りで一台のワゴン車がS字を描くようにハンドルを切って歩行者を片っ端からはねるというテロ事件が起きてから一週間が経過した。  すでにHBOで既報のように、スペイン政府内務省の警察庁は、昨年12月20日付で車の突入によるテロを防止する策として、車のアクセスが容易と思われる人通りの多い場所には大きな植木鉢やコンクリートブロックなどを配置するように要請していた。  バルセロナ市が内務省のこの要請を素直に受け入れて、ラス・ランブラス通りに車の突入を防ぐ障害物を設置していれば、今回のテロ事件は発生していなかったであろうというのが専門家や世論の評価となっている。  しかし、残念ながら、この要請に対してもバルセロナ市政は受け入れを拒否した。その背景には、バルセロナ市を擁するカタルーニャ州政府が、スペインから独立することを主張しており、スペイン政府からの依頼には基本的に何事においても反対する姿勢だという点がある。

景観か、テロ対策か

 ラス・ランブラスに障害物を設置する、しないの判断に直接関係しているのはバルセロナ市役所である。市長アダ・コラウは社会活動家で2015年に市長に成るや「2020年に向けた観光都市計画」を発表し、これまで無計画に発展したバルセロナを綺麗な都市にすると言って、建設が予定されていた全てのホテルの建設を中止させた人物である。  また、大聖堂などがある歴史地区でのバル、カフェテリア、自転車のレンタルショップ、24時間スーパーなどの開設も禁止した。観光都市計画が明確になるまで新規の事業ついて市役所は認可しないという姿勢なのである。歴史地区に相応しい美観を守る必要があると彼女は考えているらしい。  ただ、この計画の具体案が既に1年以上経過しているというのに未だに出来上がっていないということなのである。その影響で、ホテル業界は市役所に対して営業妨害だとして裁判所に訴えるなど、問題化しているのだ。  その様な考えを持った市長である。美観を損なうコンクリートの障害物を設けるなど素直に容認できないのである。  『Catalunya Radio』に出演したコラウは<「ライトバンは小型だった。だから、障害物を設置していたとしても、その間を潜り抜けたであろう」「悪意をもって実行することに対して、それを食い止めるのは難しい」>と述べている。(参照:「Es Diario」)  もちろん、テロにまったく無策だったわけではなく、テロ防止に戦略的に重要と思われる場所には警官を増やしたり、大きなイベントのときは障害物を設置するなどはしていた。しかし、結局それも意味をなさなかったのだ。
次のページ
カタルーニャ自治警察と国家警察のライバル関係
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会