バルセロナ市はなぜ「突入防止用障害物」導入要請を受け入れなかったのか?

 また、コラウ市長がそのように決定した背景には、カタルーニャ自治警察(Mossos d’Esquadra)が障害物を設ける必要がないと判断していたことにも起因している。  ここで筆者が触れなければならないのは、自治警察はスペインの治安機動隊そして国家警察をライバル視しているということである。国家警察と自治警察の業務の多くが重複しているため、自治警察の存在感を州民に誇示するには敢えて国家警察の存在を無視する必要があるのである。  今回の内務省からの上述した要請は、国家警察長官からの自治警察署長に宛てられたものである故に自治警察では尚更素直に受理できない要請なのである。  それを示すかのように、自治警察広報官シャビエル・ポルクナは7月に<「(国家警察が)指摘されたような設置を我々は実施する予定はない。カタルーニャでは具体的に脅威は感知されていないからだ」>と答えていたのである。(参照:「Ok Diario」)  しかし、スペインは警戒レベルが「4」になっている上に、6月にはCIAがラス・ランブラスでテロが起きる可能性があることを通報していた。その点において、自治警察の判断はまったくの誤りだったと言える。  また、今回のテロでラス・ランブラスで<突入したワゴン車は600mも進むことが出来た>という事実を前に専門家の間では警官の存在は全く役に立っていなかったという意見で共通している。更に、専門家が指摘している点は<ワゴン車の運転手がそこから容易に逃走できた>という事実である。そこに居合わせたはずの自治警官は何をしていたのであろうかという疑問が湧くわけである。(参照:「El Mundo」)

市民からの疑問の声も

 ラス・ランブラスには多くのキオスクが存在しているが、事件が起きた当日、その経営者の中にはスペイン国営放送の記者に<「市役所に障害物を設置するように以前から要求していた」>と語ったという。この通りは、両側が車道になっていて、その真ん中に位置している歩道に車がどこからでも突入出来る容易さがあるのである。しかも、この通りは1.2キロの距離があり、そのどの位置からでも簡単にハンドルを切って歩道に突入できる。危険この上無い通りなのである。(参照:「El RETRATO DE HOY」)  自治警察と市役所のテロとの取り組みへの経験の薄さから怠慢を呼び、スペイン内務省警察庁の要請を無視した。その結果が13人の犠牲者と多くの負傷者という結果になった。犠牲者の中には祖父と3歳の孫、オーストラリアの7歳の子供、結婚1周年記念旅行で訪れた夫婦の主人、イタリアの若い父親らが犠牲者となっている。  自治警察は今も治安機動隊と国家警察の協力を請うことなく、ほぼ単独で事件の解明を急いでいる。市長のアダ・コラウは障害物を設置しなかったことに謝罪することもなく、それを設置しなかった言いわけを繰り返しているだけである。 <文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会