そんな日本とは対照的に、ずいぶん前から国を挙げて製造業にIoTを積極的に取り入れている国が、ドイツである。
ドイツは2011年ごろから、このIoT化に「Industorie4.0(インダストリー4.0)」と銘打って、国ぐるみで製造現場の工場を繋ごうと取り組んできている。今やその動向は世界の指標となりつつあり、「インダストリー4.0」という言葉そのものが、世界中の工場マン共通のスローガンにまでなっているほどだ。
このインダストリー4.0は、「第四次産業革命」と訳されるが、つまるところ、ドイツではこの「IoTによるスマート化」を、第一次産業革命の「蒸気機関による機械化」、第二次の「電気による量産化」、第三次の「コンピュータによる自動化」に続く「革命」だと位置付けているのだ。
父の工場が廃業した後、筆者はしばらくドイツの某大手自動車メーカーの日本本社へ赴いていた時期があるのだが、世話になっていたディレクターがしきりに言っていたのは「ドイツの『ミッテルシュタンド(中小企業)』の技術力」についてだった。
「ドイツの製造業界はその約80%が中小企業。職人は皆繊細で、徒弟制度もある。日本と驚くほど似ているけれども、明らかに違うのは、彼らドイツの中小企業は、上(元請け先)から来る仕事を待ったりしない。下請けに甘んじず、自らの技術を国内外へ発信しようとする自発性がある。だからドイツの中小企業の利益率は、大企業よりも高いところが多い」
父の工場がなくならなければ、彼らに会うこともなかったのだが、こういう話を聞かされる度に、あの工場が無性に恋しくなった。
IT先進国であるアメリカも、製造の現場のIoT化を積極的に進めている国の1つだ。
アメリカが推し進めるIoT化は「Industrial Internet(インダストリアル・インターネット:産業のインターネット)」と呼ばれ、2012年ごろから世界最大の複合企業「ゼネラル・エレクトリック社(GE)」を主軸とする大手民間企業によって、製造、エネルギー、ヘルスケア、公共、運輸の分野をITやICT(情報通信技術)の視点から変えていこうとする大規模な取り組みがなされている。これにより、製造業界のビジネスモデルは、製造、販売、保守や補充といった従来型から、データ収集や解析、コスト削減や効率化、品質向上といった「サービス産業」へと大変革を遂げようとしているのだ。
インダストリー4.0の「工場のスマート化」や、インダストリアル・インターネットの「産業機器のスマート化」は、今後間違いなく世の中を大きく変える。方向性がすでに定まっている彼らが見据えているのは、「世界の標準化の獲得」という次のステージだ。一方、日本もようやく2015年10月に経済産業省と総務省が、企業や自治体、研究機関などと連携して「IoT推進コンソーシアム」を組織したが、アメリカから3年、ドイツから4年の遅れは、正直かなり大きい。
それでも「お茶を楽しみながら安否を知らせる」発想が生まれる国だ。IoTに特化したセキュリティ対策の強化や、中小企業がIoT化しやすい環境の整備を、日本が誇る発想力とカイゼン力で推し進めることができれば、今後大逆転も十分にあり得るはずだ。
<文・橋本愛喜>
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。