日本がIoT化に乗り遅れた第一の要因は、日本の製造現場の主軸が中小企業であることにある。
国内の製造企業のうち、実に約74%が資本金1,000万円以下の中小企業だ。それゆえ、彼らが設備投資をして工場をスマート化させる際には、ある程度の「賭け」と「覚悟」が必要となってくる。製造現場のIoT化には、データ収集・解析による「見える化」、機械の制御、さらにはその自動化・自律化といった段階があるのだが、その段階に伴って、センサー、通信機器、データの解析などにコストがかかることになる。しかも、製造の現場にある機械は、通常1種類ではない。モノづくりは「ライン」によって形成されているため、工場のスマート化を目指すのであれば、現場にあるほぼ全ての機械にセンサーを搭載しなければ意味を成さず、初期投資にまとまった資金が必要になることが多いのだ。
第二に、セキュリティの問題が挙げられる。日本には、IoTに特化した明確なセキュリティ対策がまだ定着していない。既存のITシステムのセキュリティ対策では不十分なことが多く、収集・解析後のデータや個人情報の取り扱い方、それに不正アクセスによるラインの完全停止などを懸念する経営者が、IoT化を躊躇うケースも少なくない。
さらに、閉鎖的な社会と国民性そのものが、IoT化に今一歩踏み込めない要因となっていることがある。製造のIoT化におけるキーコンセプトの1つは「つながる工場」の構築だ。しかし、日本の製造業界には、他社との協力によって何かを作り上げるという発想が生まれにくい。技術の国だからこそ、自社の技術を隠して守りたがる傾向がある。ゆえに、IoTでデータが「見える化」され、工場同士が繋がることは、彼らにとって技術や情報の漏えいとの格闘だったりもする。効力の有無に関わらず、古くから就業規則に同業他社への転職禁止を明言する製造企業さえあるこの日本で、「見える化」への180度の大転換に、「罪悪感」にも近い感情を抱く経営者も多いのだ。
こういった様々な要因が絡み合い、日本の製造業界の「IoT化」に向けた取り組みは、ブレーキとアクセルを一緒に踏みながら「様子を伺っている」状態となっているのである。