NASAが2009年に実施した、ロケットを月面に激突させて、舞い上がった月の砂埃の中を探査機が飛行してその砂埃を分析する実験の想像図。水があるたしかな証拠を捉えるにはいたらなかった Image Credit: NASA
そんな中、今回ブラウン大学は新たに、月に水が、それも豊富にあると考えられる研究結果を発表した。
もともとブラウン大学は、月の水の研究については長年の実績がある。2008年には、かつて「アポロ15」と「アポロ17」ミッションで回収された月の石を、再度詳しく分析したところ、そこに含まれる火山ガラス粒子(火山が噴火する際にマグマの中にできるガラスの粒子)の中に、水が含まれていることを発見。さらに2011年には、その水の量が、地球上にある玄武岩という種類の石と同じくらいであることがわかっている。
ここで重要なのは、アポロ計画で回収された種類の月の石が、はたして月の全体の中でどれくらいの割合を占めるのか、ということだった。たとえば、同じ種類の石が月の全体に広がっているのなら、月には豊富に水があると言えるかもしれない。しかし、もしたまたま水が多い地域から回収されたものだったとしたら、月の大部分はやはりカラカラの乾いた世界で、水はほとんどない、という可能性もある。
そこで今回、ブラウン大学とハワイ大学の研究者らは、インドが2008年に打ち上げた月探査機「チャンドラヤーン1」が観測した月面のデータと、アポロ15、17で回収された石の分析データを組み合わせ、月の火山性堆積物に含まれる水の量を正確に検出できる方法を考案。それを用いて分析したところ、かつて火山活動によってできたと考えられる場所(アポロ15、17が着陸した場所を含む)の、それも広い範囲に、大量の水が含まれていることを示す結果が得られたという。
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今回の研究結果を示した図。色付けされた部分に、水があることと考えられており、黄色や赤色の部分はとくに大量の水があると考えられている Image Credit: Milliken lab / Brown University
もしブラウン大学の研究結果のとおり、月に大量の水があれば、人類の宇宙進出にとって大きく役立つ可能性がある。
現在、米国を中心に、月への探査機打ち上げや有人飛行、そして人類の移住を目指している企業がいくつも出始めている。その筆頭は「ムーン・エクスプレス」と「アストロボティック」という米国企業で、両社は無人の月着陸機の開発を進めており、数年以内に打ち上げることを目指している。
さらに、Amazon.comの創業者ジェフ・ベゾス氏が立ち上げた宇宙企業「ブルー・オリジン」も、月への有人飛行と街の建設を構想しており、詳細はまだ明らかになっていないものの、そのためのロケットや宇宙船の開発も進めているという。
彼らの計画は、単に月に行きたいという夢を叶えるためではなく、月にものを運んだり、人が生活できるようにして経済圏を広げたりと、月を舞台にビジネスを展開することを目的としている。
そして、この計画にとって大きな鍵を握るのが、月の水の存在である。
いうまでもなく、人が生きていくためには水が欠かせない。将来人類が月に移り住もうとした際、月に水がなければ、地球から持っていかなければならない。しかし大量の重い水を、地球から月へ運ぶのは大変で、コストもかかる。また、水を再生して使いまわす技術はあるので、常に運び続けなければならないというわけではないものの、それでも使える水の量は限られるため、常に水不足のような状態の生活を強いられる。
しかし、もし月に水が大量にあれば“現地調達”できる上に、お風呂でもシャワーでも、文字どおり湯水のように使うことができる。また、水は電気分解すれば水素と酸素になるため、人が生きるのに必要な空気にできるし、さらにロケットの燃料にもできる。水があるのかないのか、あるならどれだけの量があるのかということは、月に住めるかどうかを左右する、とても大きな問題である。
また、今回の研究結果のもうひとつ大きなところは、月の赤道付近など、比較的行きやすい場所に水が存在する可能性がある点である。
これまで水がある可能性が最も高いと考えられていたのは、月の南極付近だった。ここにはシャックルトン・クレーターと呼ばれる巨大なクレーターがあり、その底の部分には太陽の光が半永久的に当たらず、水が氷の状態で眠っていると考えられている(ただし、これまでの探査機による観測では、少なくとも見える形では確認されていない)。
しかし、もし月の大地の広い範囲に水が存在しているのなら、南極以外にも住める可能性が出てくる。とくに地球からロケットで行く場合、月の南極よりも赤道付近のほうが行きやすいため、探査や有人飛行、移住が、より実施しやすくなる可能性が出てくる。