年間7万社が後継者不在により廃業。日本の町工場も例外ではない

廃業を決めた工場最後の日。がらんどうになった工場を背に撮った筆者の家族写真(筆者は右端)

 総務省が発表した平成27年度の個人企業経済調査によると、後継者が確保できていない日本国内の製造企業は、81.1%にもおよぶ。事業主が60歳以上の割合は76.3%。団塊の世代が70代を迎える昨今、日本のモノづくりを支える町工場の後継者問題は、日々深刻化の一途をたどっている。  娘である筆者がこういうのもおかしな話だが、父の経営していた工場でも、この後継者問題は最後まで解決できなかった。町工場の抱える社内問題について綴った前2回の「労働基準の変化」、「ワンマン経営のもろさ」に続き、今回はこの「後継者問題」について“継ぐ立場の側”から綴っていこうと思う。

零細工場の跡取り娘と知られるや、オトコたちは全速力で逃げて行く

 親が中小零細企業を経営していると、「後継者」として最初に名が上がるのは、否が応でも、その子どもである。幼い頃から自営で働く親、または両親の姿を見ていると、子どもには「自分もいずれこの仕事をする時が来るのだろうか」と考える時が必ずやってくる。  ところが、そんな子どもが社会人になろうとする頃には、環境も考え方も大きく変わっていることが多い。  必死で働いてきてくれた親のおかげで、筆者は金銭的には比較的余裕のある暮らしをしてこられたほうだと思う。学生の頃には様々な経験をさせてもらい、大きな夢を抱くようになった。  が、親が事業をしている子どもには、その夢の矛先が親の事業ではないという皮肉な現象が起きることが多く、例に漏れず、筆者の夢の矛先も、残念ながらやはり“工場”ではなかった。ゆえに、学生時代に父からの「継いでくれないか」という願い出を2回真面目に断っていたのだが、それでも大学卒業間際に工場へ正式に入社することになったのは、前回述べた経緯の通りだ。  父の営む工場には、物理的に力を要する工程が多く、筆者の中で「自分は女性だから継げない」、「継がなくてもいいと両親も言うだろう」という意識が幼い頃からどこかにあったのかもしれない。  やはり両親も、自分たちの仕事は女性が継ぐものではないと十分に分かっていたようで、厳密に言えば、昔から彼らには「筆者自身に」というよりも、「筆者の未来の旦那」に継いでもらおうという魂胆があった。  筆者がトラックで得意先に仕事を引取りに出かける際、母親が言い放つ「いい男も一緒に引き取って来い」という言葉に、毎度ギアをバックに入れても足りないくらいドン引きするも、病気になった父を想うと「そうなったらそうなったで、まあいいか」と心のゲートを開いた時期もあったのだが、女っ気のない性格はもとより、「あのヤンチャな社長の娘」だと知られるや、“ゲートの向こうのいい男”は、ギアをトップに入れても追いつかないくらいのスピードで逃げてゆく。  それゆえ以前話したように、筆者に声を掛けてくるのは、結局怖いモノ好きな50~60代の長距離トラックドライバーしかいなかった次第である。
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