思想家・西部邁大いに語る「都民ファは今の日本人によく似合っている」

 中央公論新社から6月10日に発刊された『ファシスタたらんとした者』は、自伝的作品というその性格も相まって、いわば「自らの思想の核としての経験」を書き連ねてきた評論家・西部邁にとっての、集大成となる作品といえよう。

西部邁氏

 今回、発刊を記念したインタビューを敢行するために東京某所にある事務所に伺うと、昼下がりの日差しを背景にして、椅子に深く腰掛け、紫煙をくゆらせる“ファシスタ”の姿があった。平成を代表する評論家が明晰に語り尽くしたその来し方行く末とはーー。

“小さなデマゴーグ”が日本人にはよく似合う

 2017年7月2日に投開票がされた東京都議選挙は、小池百合子率いる都民ファーストの会(以下、都民ファ)の圧勝に終わった。「あたらしい議会」を掲げる都民ファだが、緑地に白抜きの都民ファのイメージカラーには既視感がある。そう、小池が政界デビューを果たした日本新党のそれなのだ。

 日本新党や都民ファなど「改革政党」をめぐる“熱狂”は、平成時代に何度も繰り返されてきた光景であり、それらはほとんど何も生み出してこなかったのは周知の事実である。しかし、現代日本人といえば、そんな改革幻想に、相も変わらず酔いしれている。平成という時代を評論家として生き、ポピュリズム(人気主義)に警笛を発し続けてきた西部に、いまの日本人はどう映るのか。インタビューの冒頭でそう問いかけると、ファシスタはポツリとこう述べた。

西部邁(以下、西部):小泉純一郎さん、橋下徹さん、小池百合子さんなど、トランプ君やプーチン君と比べると、圧倒的にスケールの小さなデマゴーグが、この島国にも続出していますね。日本語でデマというと、ウソ話ですが、元々はギリシャ語のデーモス(民衆)という言葉に由来しますから。

 デマゴーグというのは、“民衆扇動家”という訳語よりも、“民衆的”とでもいったほうがしっくりくるのかもしれません。いわば、デマゴーグいうのは、その時代に生きる民衆のマジョリティを、表象しているといって構わないのです。小さなデマゴーグがよく似合う。それが、いまの日本人だということです。

 そう述べ終わると、日本の政治状況についての言葉は、もはや尽くされたようだった。そして、遠くを見つめながら一服したファシスタは、自らの生きてきた戦後70年、その人生と思想の成り立ちについて、滔々と語り出したのだった。

自分を試すものとしての「エッセイ」とイタリア・ファシスタの「行動主義」

 エドモンド・バークやオルテガ・イ・ガセットの系譜を継ぐ思想家として知られる西部だが、その文章には社会科学の範疇に留まらない独特のスタイルがある。保守思想への目覚めのきっかけとなった英国での体験を記した『蜃気楼の中へ』(中央公論新社)にしても、ブントでの活動を振り返った『六〇年安保―センチメンタル・ジャーニー』(文藝春秋)にしても、根本にあるのは「自分の経験をためつすがめつ解釈する」という姿勢である。

 自らの経験の解釈の先に、思想を浮かび上がらせる、本源的な意味での“エッセイスト”といってもいいかもしれない。文芸評論家の故・秋山駿氏は文科省芸術選奨の選評で、西部の取り組みを「この著者は新しい分野を創ろうとしている」と評していた。

西部:基本的な文体はエッセイしかないんだ。様々な学問分野を、自分なりに総合的につなぎ合わせて、なるべく理屈っぽくならないようにしながらも、人間や社会の全貌を浮かび上がらせる。自分の経験を織り交ぜながら、自分を試すように書いていく。エッセイという言葉には、エグザミン(試験)に由来する。エッセイを書くという行為には、「自分を試験する、試す」という面があるからね。

 今回の本のタイトルにもなったけど、俺のファッショは、必ずしも政治的なものとはいえない。ファッショには、「束ねる」という原義がある。自分の経験と理屈を、なんとか束ねたい。経済学、文化人類学、政治学、心理学といった自分の勉強してきた学問分野も束ねたい。人間関係でいっても、仲間も束ねたいし、自分も束ねたい。俺のファッショには、そんな広い意味を持っているんだ。そもそも、ラテン語のファクティオという言葉は、人間の為すことすべてをさすんだ。

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