孫正義が10億ドル出資した衛星インターネット計画「ワンウェブ」、あれからどうなった?

ワンウェブの人工衛星の想像図 Image Credit: OneWeb

 昨年12月、ソフトバンクグループが米国の「ワンウェブ」(OneWeb)という企業に、10億ドルを出資するニュースについてお伝えした(参考『ソフトバンクが10億ドル出資する宇宙企業「OneWeb」ってなんだ!?』)。  ワンウェブは、700機以上もの人工衛星を地球のまわりに打ち上げ、全世界にブロードバンドを提供しようという、壮大な構想を掲げている企業である。ソフトバンクの孫正義氏はこの構想に強く興味をもち、ワンウェブを立ち上げたグレッグ・ワイラー氏と長時間にもわたる会談を行い、いくつもの質問をぶつけたあと、出資を決めたという。  それから約半年がたち、ワンウェブがその壮大な実現に向け、新たな動きを見せた。

多数の衛星で地球を覆う衛星インターネット

 まず、ワンウェブが目指す衛星インターネット計画について、簡単におさらいしておきたい。  ワンウェブが目指しているのは、全世界のすべての人がインターネットにつながる世界である。世界の人口70億超のうち、約半分にもなる40億人が、まだインターネットにつながることすらできていないといわれている。そこで彼らにもインターネットを提供し、先進国と同等の教育やエンターテイメントを提供して、情報格差をなくそうというのが同社の目標である。  そのためには世界中に光ファイバーのケーブルを敷き詰めることが必要になるが、そんなことは現実的ではない。そこでワンウェブは、地球を覆うように大量の衛星を打ち上げ、宇宙から電波を降らせることでインターネットをつなげようとしている。  人工衛星を使ったインターネットそのものは、すでに実用化されており、近年始まった旅客機の中からのネット接続サービスなども衛星を利用している。ただ、従来のものは地球から約3万6000kmも離れたところにある衛星を使っており、衛星数は少なくて済むものの、距離が遠いため通信に遅延が生じる。また、そうした衛星は静止軌道という、赤道上にしか配備できないので、緯度が高い地域では利用しにくいという問題もある。  そこでワンウェブは、地球の上空数百kmから1000kmあたりの比較的低い軌道に大量の衛星を打ち上げることで、遅延がほとんどなく、また文字どおり全世界のどこででもネットにつなげることができる仕組みを打ち出している。  同様の構想は、実業家のイーロン・マスク氏が率いる宇宙企業「スペースX」の他、米国の大手航空宇宙メーカーであるボーイングなど、いくつかの企業も明らかにしており、競争が始まっている。今のところはワンウェブが先行しているが、他社もあとに続き、あるいは少し異なる方法で同様の仕組みを実現しようとするなど、どこが覇権を取ることになるかはまだわからない。
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ついに動き出したワンウェブ
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