奨励会員はアルバイト禁止! 26歳まで無職ニートを覚悟しないとプロ棋士にはなれない
これまで二回に渡り、石田直裕四段の例からプロ棋士になるための実情や奨励会の実態について迫ってきた。
奨励会は26歳までに四段に上がれなければ強制退会となるが、直裕は18歳の時点で二段止まり。このままでは厳しい状況だった。
母・寿子氏の目からみても、石田直裕は大学卒業時分に四段に上がれそうにはなかった。そこで寿子氏は、息子にさりげなく就職の誘いをしたという。
「あまり強い口調でもなく、本気でもありませんでしたが、ほかの可能性を考えてみたら?と言ったことはあります。しかし、本人は小さな声で“いや”と言うだけでした」
もう一つ不安があった。直裕は将棋に打ち込んできたゆえ、サービス業その他の「普通の仕事」の経験が皆無だった。お金はともかく、少しでもシャバの空気に触れれば何か変わるのではないかと、コンビニでバイトをしてみてはどうかと水を向けたこともあったという。
「その時も、“いや、そんな時間はない”と答えるばかりでした」
大学卒業後も奨励会に残るということは、実質的にはニートになるのと同じだ。それでも、今まで将棋にかけてきた労力や時間、三段リーグにいる現状を考えれば、残るのは当然だった。
私は寿子氏に、奨励会員の親として一番つらかったのは七級に落ちたときかと聞いた。それは当然だが、寿子がもう一つ辛かった時期としてあげたのは「大学卒業時」だった。
「だって、たまに名寄に帰ってきても、決して同級生に会おうとはしないんですよ。あんなに仲良かったのに、“四段になるまでは会いたくない”の一点ばりでした」
結局、石田夫妻は直裕の大学卒業後も仕送りを続けることになる。
「お小遣いはあげていませんでしたが、家賃と光熱費は自動引き落としにしていました」
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