もうひとつ警察が介入する前の段階で話し合いで事件を終わらせるのは、被害者に対して示談を持ちかけることである。この点は交通事故の揉め事と同じだ。
痴漢事件の示談の相場は、罪状にもよるが、
・迷惑防止条例判:10万~50万円
・強制わいせつ罪:30万~100万円
と言われている。
ただ、これは事件に警察や弁護士が介入した後でわかる話だ。まだ警察も弁護士も登場しない状態であれば、相場などあってないようなものである。つまり、何円で済ませられるかは、痴漢容疑を掛けられた本人の交渉次第だ。
痴漢事件の示談の相場となる10万~100万円の現金を普段から持ち歩いて、電車やバス通勤している人はそういないだろう。だから相場といえる示談金をその場で支払える人も滅多にいない。とはいえ、痴漢行為をされたと思っている被害者が、加害者相手に自分の個人情報を教えることに、なかなか素直に同意はしないだろう。
痴漢事件が被害者との話し合いだけで、和解や示談が成立することなど滅多にない。駅員室に連れ込まれ、そこに警察官が登場して逮捕されてしまうのである。警察署に連行され、容疑を否認しようものなら、厳しい取調べの後、留置場にブチ込まれてしまうのだ。
さてここで人生最大級の選択が迫られる。それは「痴漢冤罪で罪を認めてしまうか否か?」というものだ。
もちろん本当に痴漢をしたのであれば、サッサと罪を認めるべきである。しかし、被害者と名乗る人物の単なる勘違いで、痴漢の罪を着せられてしまった場合、あくまで無実を主張するか、冤罪なのは百も承知で罪を認めてしまうかという選択をしなければならない。
あくまで無実を主張した場合は後述するとして、ここで痴漢冤罪の罪を被ってしまった場合、事件がすぐ終わるというメリットもあるのだ。痴漢事件の多くは、各都道府県の定めた迷惑防止条例違反である。想定される刑罰は、初犯の場合、
・6か月以下の懲役もしくは、50万円以下の罰金
となっている地域が多いが、よほど悪質なケースでない限り、罰金30万円程度で終わるのが普通だ。
しかも起訴前に罪を認めれば、“略式手続き”が適用される。略式手続きというのは、予想される刑罰が軽微(最高刑が懲役3年未満か、もしくは100万円以下の罰金、あるいは科料)で最初から罪を認めている場合、公式の裁判を省略してさっさと罰金を支払うことで、釈放される刑事手続きの一種だ。