経験者が語る“下請けいじめ”の実態。不当な減額、買い叩き、タダでやり直し要求は当たり前

「専用請求書」を1500円で買わされていた

 日本には、下請法という法律がある。正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、先述したように親事業者の一方的な都合から下請け企業を守るための法律で、親事業者に対して「義務」と「禁止事項」が細かく定められている。公正で自由な競争を守るための法律として知られる「独占禁止法」では対処できない、末端企業を保護するための補完的法律だ。  下請法が適用される業者かは、事業者の資本金額や職種などによって決まる。代表的なのが製造業で、父の工場のような、大手のくしゃみで大風邪を引くほどの弱小町工場にとっては、格好だけでも国が「マスク」になってくれることは心強かった。  そんな下請法を通して父の工場を見た時、取引先数社から「減額」と「買いたたき」、そして「不当なやり直し」の項目に該当する行為を受けていたことが分かった。父の工場は、得意先が作った金型を預かって研磨する、いわば「技術業」。それゆえ、元請けにとっては値段を調整させる言い訳が立てやすく、不当な値下げや返品などの強要が頻繁に行われていたのだ。 「減額」とは、文字通り支払い金額の減額を強要する行為だ。下請法では、下請事業者に責任がないにもかかわらず、親事業者が発注後に代金を減額することを禁じている。  父の工場は長年、ある取引先から彼らの言い値で仕事を受けており、さらには締日後に「月予算がオーバーしたから10%割引した請求書を再送するように」と強要されたことも度々あった。1冊1500円で購入させられていたその会社専用の請求書の束を、倉庫の棚奥にしまいながら、「同量の仕事くれるんやったら、こんなもん印刷追いつかんくらい買うたるわ」と皮肉る父親が、なぜかかっこよく見えたのを覚えている。 「買いたたきと」は、市場価格に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めることで、筆者の入社当時、訳あって混乱していた工場の弱みにつけこむ形で、通常の3分の1の価格で仕事をさせられていた時期があった。

細かい指示にミスが出ないように、金型には色分けしながら引取りの際に全て書き込む

 中でも「不当なやり直し」は、技術を売る企業にするとかなりやっかいで、父の工場の場合納品した金型のどこにも傷はなく、検品にも通った後にもかかわらず、電話で「今再確認したら傷がある。これでトライ(成形)してみるが、もしNGだったらやり直せ」と一方的に言われることが頻繁に起きていた。結局一度使った金型は全体に傷がつくため、元々傷があったなかったに関係なく、「やっぱりNGだった」のひと言で無償のやり直しをさせられることになるのだ。  こうなれば、下請けは取引先のいいなりになるしか術がない。中小・零細の下請け企業は大手と違い、1つの契約が突然切れると、たちまちに経営が立ち行かなくなることが多々あるため、下請けは注文書に書いてある納期や金額よりも、結局取引先の顔色を見ることになる。
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「他の会社はタダでやりなおしてくれる」
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