インドネシアの金鉱山の採掘現場。世界中で果てしない資源の採掘が続いている
いま「自然資本経営」という新たな経済学が、環境破壊や資源枯渇、格差拡大などの諸問題を解決する一つの方法として注目されている。その分野で日本の第一人者と言われる、資源・環境ジャーナリストの谷口正次氏に話を聞いた。
自然を“資本”とみなし、バランスシートに組み入れる
――谷口さんが提唱されている「自然資本経営」とはどういうものですか?
谷口正次氏
谷口:西洋化された近代産業社会では、自然は支配・利用すべき単なる“もの”として扱われ、自然から与えられた恵みは人間の“所得”とみなされます。本来、人類の生存基盤である自然という“資本”の消耗が進んで限界(破産)が近づいているということは、人類にとって重大な問題のはずです。この資本が欠如して経済成長など望めるはずがありません。そうだとすれば、“自然という資本”を浪費して消耗することなく、賢く経営していかなければならないはずです。
その賢い経営の方法とは、企業経営(Business Management)という狭義の経営ではなく、自然を資本とみなし、バランスシートに組み入れた経済を築くこと(Building a Natural Capital Economy)なのです。そのためには新しい経済学、すなわち「自然資本経済学」が必要だと考えています。
自然を“資本”とみなすことに対して違和感、抵抗感を持つ人は多いかもしれません。しかし、もうそうは言ってはいられないほど世界では資源や環境そして社会の危機が進行しています。
――いつ頃からこういった考え方が出てきたのですか。
谷口:最初に「自然資本」という言葉を使ったのは、エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハーが1973年に書いた『スモール・イズ・ビューティフル』の中だと言われています。最近になって、この「自然資本」という言葉が持続可能な発展の論議の中でよく聞かれるようになってきました。