日本人がプライバシー権を勘違いしている限り、働き方改革は成功しない

HHImages / PIXTA(ピクスタ)

 政府の大号令のもと、急速に進められつつある働き方改革。だが、「プライバシーの問題を理解できなければ、働き方改革は成功しない」と警鐘を鳴らすのが、元財務官僚で、ハーバード・ロースクールを卒業した山口真由氏だ。それは一体どういうことなのか? 山口氏に緊急寄稿していただいた。  最近、プライバシー権に関するニュースが増えている。というと、令状なしのGPS捜査を違法として、3月15日の最高裁判決を思い浮かべるかもしれない。窃盗が疑われる人物の自動車19台に、令状を取らないでGPS端末が取り付けられたこの件で、最高裁は、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間を含めて、逐一、所在や移動状況が分かってしまうGPS捜査には令状が必要と判断した。  だが、プライバシー権に関するニュースは、決してそれだけではない。最近話題の働き方改革は、まさにプライバシーの問題なのに、それがないがしろにされている。

そもそもプライバシー権とは何か?

 そう言っても、多くの人はぴんと来ないのではないか。そもそも、日本ではプライバシーは、不当に矮小化されている。個人情報保護法が導入された際に、住所や名前などの個人情報=プライバシーという誤解が広まってしまったからだろう。実は、個人情報とプライバシーは、まったくの別ものである。  住所や名前などの流出騒ぎは、個人情報の問題でプライバシーの話ではない。路上の監視カメラが増えるのは、プライバシーの問題のひとつではあるが、プライバシーの本質はそこにはない。私がハーバード・ロースクールで学んだのは、プライバシーというのは、究極的には「自分の私的領域を国に管理されない権利」、言い換えれば、「自分の人生を自分で選び取る権利」ということだった。  具体的に説明していこう。  アメリカの連邦最高裁が、憲法に書かれていないプライバシーの権利を判例で認めたのは1965年。夫婦の寝室での決定権をめぐる裁判だった。  この当時のアメリカのコネチカット州では、キリスト教の教えに基づいて避妊が違法とされていた。夫婦に避妊の指導をした女性は、この法律に違反して逮捕された。そこで、最高裁は、いつ何人の子どもを産むかという家族計画は、まさに人生の選択なのだから、政府がとやかく言ってはいけないと判断して、避妊を禁じる法律自体を違憲とした。  この「人生を選択する権利」は、1973年には、産むか産まないを決める女性の権利に発展した。妊娠したティーンエイジャーの女の子にとって、今、子どもを産むか、それとも学業を続けるかは、まさに人生の選択。もちろん、この場合には、お腹の中には命が宿っているので、母親の選択権だけが問題ではない。それも踏まえて最高裁は、妊娠初期の段階までは女性の選択を広く認めたのだ。  さらに、2003年には、人生のパートナーを選ぶ権利が認められた。キリスト教に基づいて同性愛を禁じていたテキサス州で、家の中で性行為に及んでいた同性カップルが逮捕された。このときにも最高裁は、誰とロマンチックな関係を築くかというのは、個人が主体的に選ぶべきことなのだから、政府が口を出すべきではないとして、法律を違憲とした。
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