タイで起業を思いついたある元バックパッカーの甘すぎる目論見

能天気さだけが取り柄

 社長がいくなった翌日にいきなり道を忘れるような“信頼できる”従業員に運営を任せたのだというから愕然としてしまう。そして、よりによって、森町氏名義のキャッシュカードを人に預けたのだという。それでは持ち逃げの可能性があるのではないか。 「それはないです。その人は今の会社の名義の人なんで、持ち逃げはしないですよ」  まったくもって理解しがたい行動である。万が一持ち逃げがあっても、どこにも訴えることのできない状態を自ら作ったのである。  現在、森町氏は愛知の自動車工場で汗を流している。日本にいるのであれば飲食店に修行で入り、それこそ技術習得に励んだ方がいいのではないか。あるいは、会社の名義がまだ森町氏のものではないのであれば、バンコクでも多少自由は利く。改めてタイ国内の和食店で働き、修行をしながら自分の会社も見るというかけ持ちはできなかったのか。 「それも考えましたが、カネなんですよ、やっぱり。セントラルキッチンを作れる物件を借りるにはカネがかかるんです。本当に参りました。これは予想外でしたよ」  何度か森町氏に話を伺い、物件を借りる前に筆者も認可の話をしたことがある。予想外というのはなにについてなのか。  森町氏はあと半年ほど働いてバンコクに戻るという。今の仕事は月に20万円は貯金できるのだそうだ。6か月で120万円。すべてが甘すぎ、場当たり的な森町氏。唯一の救いはバカが付くほど能天気で前向きなところだ。しかし、タイのビジネスはもはやそこまで甘い考えで成功するものでもなくなっている。失った信頼を取り戻せるとは到底思えないのだ。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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