宇宙から地表を監視する「情報収集衛星」の打ち上げ成功――その意義と課題

情報収集衛星レーダー5号機を搭載したH-IIAロケットの打ち上げ Image Credit: nvs-live.com

 三菱重工と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月17日10時20分、「情報収集衛星レーダー5号機」を搭載した、H-IIAロケットを打ち上げた。安全保障に関わる衛星の打ち上げであるため、ロケットがどのように飛行したかは明らかにされていないが、三菱重工らによると、衛星を予定どおり分離して所定の軌道に投入し、打ち上げは成功したという。  情報収集衛星レーダー5号機は、内閣官房にある内閣衛星情報センターが運用する人工衛星で、宇宙から地表を撮影し、その画像を分析することで、日本の安全保障や、災害時の状況把握などに役立てることを目的としている。  この打ち上げ成功で、現在稼働中の情報収集衛星は7機となり、引き続き安定した観測が継続できるようになった。また、将来的にはさらに数を増やし、より観測の質を上げる計画もある。一方で、現在と近い将来において、情報収集衛星は課題も抱えている。

テポドン発射事件から始まった情報収集衛星の導入

 情報収集衛星は、1998年に起きた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による「テポドン」の発射事件を契機に導入された、「事実上の偵察衛星」である。  この当時、政府や防衛庁(現・防衛省)は、商業販売されている民間の地球観測衛星が撮影した画像を購入したり、米国から提供を受けたりといった形で衛星画像を使用していた。しかし、それでは見たいときに見たい画像が得られないという問題があり、実際にテポドン発射事件の際も事前に察知はできなかったとされる。そこで、独自の偵察衛星をもつ必要性が認識され、導入が決定された。  もっとも、日本では当時も今も、偵察衛星という呼び方はしていない。1998年当時、日本の宇宙開発には「平和利用に限る」という決まりがあり、さらにこの平和利用とは、非軍事であるという解釈もあったため、たとえ宇宙から敵を攻撃する兵器ではなくても、日本が偵察衛星という軍事衛星を、おおっぴらに保有することはできなかった。  そこで、「災害時の状況把握にも使う」という名目が追加され、したがって偵察衛星や軍事衛星ではないという建て前の下、情報収集衛星という位置付けで導入されることになった。  その後、2008年に「宇宙基本法」が制定され、日本も安全保障を目的に宇宙を軍事利用すること、すなわち米国のように、人工衛星を使って偵察したり、通信をしたりといった軍事利用が可能になったが、情報収集衛星は引き続き、情報収集衛星と呼ばれ続けている。  ただ、呼び名はどうあれ、情報収集衛星は米国などにおける偵察衛星、あるいはスパイ衛星と何ら変わりはない。
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