宇宙から地表を監視する「情報収集衛星」の打ち上げ成功――その意義と課題

情報収集衛星の課題

 現在のところ、情報収集衛星のひとつの大きな課題は、その成果の不透明さにある。  これまで情報収集衛星には、1兆円を超える予算が投じられたと推察されている。しかしその一方で、その成果であるはずの撮影画像が、そのままの形で公開にされたことはない。  これには、画像をそのまま公開すると、情報収集衛星の性能が明らかになってしまい、目的のひとつである安全保障への活用に影響を与える可能性があるため、という理由があるためで、それもあって情報収集衛星の画像や分析結果は、特定秘密保護法に基づく特定秘密に含まれている。  そのため、これまで北朝鮮のミサイル基地などの画像が公開されたことはなく、また画像を利用しているはずの内閣府や防衛省にとってどの程度役に立っているのかも明らかにされず、したがって第三者による検証も不可能な状態となっている。  もっとも、米国の偵察衛星なども画像を公開することはないため、これ自体はおかしなことではない。しかし、その制約によって、もうひとつの目的である災害対応への活用に支障が出ては本末転倒であるのも事実である。  実際、東日本大震災では消防庁や東京電力に情報収集衛星が撮影した画像は提供されず、別途米国の民間企業などが運用する地球観測衛星の画像を購入し、それが提供されたとされる。  こうした背景から、情報収集衛星は本当に役に立っているのか、とりわけ、災害時の活用というもうひとつの目的では十分に活用できていないのではないか、という批判がある。

偵察衛星の存在意義を揺るがす民間の技術の進歩

「平成27年9月関東・東北豪雨」の発生にともない、内閣官房が発表した情報収集衛星の撮影画像。ただしカメラの性能が知られないよう、デジタル加工で解像度が落とされている Image Credit: 内閣官房

 こうした批判を受けてか、内閣官房は2015年9月9日に、今後大規模災害が起きた際には、画像の解像度を落とした上で公開するという方針を発表。その2日後、台風18号が日本を襲い「平成27年9月関東・東北豪雨」が発生し、さっそくこの新しい方針が適用され、画像が公開されることになった。  しかし同日、Google EarthやMapsでおなじみのGoogleが、災害情報サービス「Googleクライシスレスポンス」で同地域の画像を公開した。これは民間の地球観測衛星が撮影した画像をもとに作製されたもので、公開された情報収集衛星の画像よりも精細で、さらに単にPDFに画像を埋め込んだだけの情報収集衛星と違い、ブラウザ上から被害状況が誰の目にもわかりやすく見えるよう工夫もされていた。
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揺らぐ情報収集衛星の意義
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