Amazonは宇宙をも支配するか?創業者ジェフ・ベゾスのロケットが目指す未来

「ニュー・シェパード」ロケット。小型ロケットで、人や実験装置を高度100kmまで運ぶことができる Image Credit: Blue Origin

大型ロケット「ニュー・グレン」

 ニュー・グレンの開発は2012年から始まっており、2020年の初打ち上げが予定されている。  ロケットは大きく2段式、3段式の2種類が存在し、2段式は主に、国際宇宙ステーションが飛んでいるような比較的高度が低い軌道(地球低軌道)に重い衛星を打ち上げるため、3段式は通信衛星などが打ち上げられる高度が高い軌道(静止トランスファー軌道)などへ重い衛星を、あるいは複数の衛星を同時に打ち上げるために使用される。  最も目を引くのはその機体の大きさで、直径は7m、全長は最大95mもある。単純に大きさだけ見ると、現在運用中のあらゆるロケットよりも大きく、かつて人を月に送ったアポロ計画で使われた「サターン5」ロケットにも匹敵するほどの、巨大なロケットである。  もちろん打ち上げ能力も大きく、2段式の場合、地球低軌道へは45トン、静止トランスファー軌道へは13トンの衛星を打ち上げることができる。ただ、これは現在運用中のロケットより少し大きい程度で、大きさが近いサターンVと比べると半分もない。  その理由はエンジンの性能などいくつかあるものの、最も大きな理由は、機体を再使用するためである。

「ニュー・グレン」ロケットの想像図 Image Credit: Blue Origin

イーロン・マスクのロケットと同じく、再使用できるニュー・グレン

 ニュー・グレンの機体を見ると、他のロケットにはあまりない、やや大きな翼が、機体の下と真ん中あたりにある。また、下部の少し太くなっている部分には着陸脚が収められている。この装備こそ、ニュー・グレンの最大の特長でもある。  打ち上げられたニュー・グレンは、宇宙空間に差し掛かるくらいの高度で機体を分離。上の機体はそのまま次のエンジンに点火して衛星を目標の軌道まで運ぶ一方、下の第1段機体は降下し、その翼で海上に用意した船に向かって飛んでいく。そしてロケット・エンジンを逆噴射しつつ、着陸脚を出して船に着地。回収した後、整備し、ふたたび打ち上げに使う。  ブルー・オリジンはこれを繰り返し、これまで使い捨てが基本だったロケットを、まるで旅客機のように何度も飛ばせるようにし、ロケットの打ち上げコストを大幅に下げようと考えている。  ちなみにロケットの再使用というと、イーロン・マスク氏率いるスペースXの「ファルコン9」も同じように、第1段機体を海上の船や発射台近くの地上に着陸させて回収し、ふたたび打ち上げに使うための開発を続けている。これまで8機の回収に成功し、3月にはその回収した機体を使い、初の再使用打ち上げも行われようとしており、2018年からは再使用が常態化する予定である。  スペースXとブルー・オリジンが同じ、「ロケットの第1段を船で回収し、再使用する」という答えにたどり着いたのは、もちろん偶然ではない。海岸沿いからロケットを打ち上げれば、海上を飛行することになるのは必然だし、そのロケットを回収しようとするなら、飛んできたコースをUターンして発射台まで戻るか、あるいは海上に船を用意して降ろすしかないというのも当然のことである。  スペースXやブルー・オリジンが登場するよりも以前にそうしたアイディアはあり、両社の開発によって、ようやく実現しつつある段階にある。もっとも、両社の再使用方法は似ているとはいえ、違うところも多々あり、どちらが優れているのか、またそもそもロケットの再使用でどれほどのコスト削減ができるのかも未知数である。
次のページ
すでに大手衛星通信会社から打ち上げを受注
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会