もちろん、こうしたことは、金属水素が本当に生成でき、さらに予測どおりの性質をもっており、なおかつ手軽に扱え、量産もできることが確認されて、ようやく初めて実現の可能性が見えてくるものである。そのため今の段階では、まだ夢物語に過ぎない。 　それでも、金属水素の存在が予測されてから約80年目にして、生成に成功したという有力な結果が出ただけでも大きな成果であろう。ともすれば錬金術にさえ思えるような予測を科学者たちが研究し続けていること、そして地球の中心部よりも高い圧力を作り出せる実験装置を技術者たちが開発したことは、私たち人類の科学・技術が、着実に前へ、未来へ向けて進んでいることを教えてくれる。 　もしこれが本当に金属水素だったなら、私たちは文字どおり、教科書が書き換わる瞬間を目撃することになる。たとえ期待はずれな結果に終わっても、がっかりすることはない。それは次のさらなる研究に向けた礎になるのだから。 ＜文／鳥嶋真也＞ とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』（共著、洋泉社）。 Webサイト: http://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info 【参考】 ・Observation of the Wigner-Huntington Transition to Solid Metallic Hydrogen（https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/1610/1610.01634.pdf） ・Advance in high-pressure physics | Harvard Gazette（http://news.harvard.edu/gazette/story/2017/01/a-breakthrough-in-high-pressure-physics/） ・Diamond vise turns hydrogen into a metal, potentially ending 80-year quest | Science | AAAS（http://www.sciencemag.org/news/2017/01/diamond-vise-turns-hydrogen-metal-potentially-ending-80-year-quest） ・Physicists doubt bold report of metallic hydrogen : Nature News & Comment（http://www.nature.com/news/physicists-doubt-bold-report-of-metallic-hydrogen-1.21379） ・Metallic hydrogen: The most powerful rocket fuel yet to exist（http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1742-6596/215/1/012194/pdf）