今回使われた装置。特殊な加工を施したダイアモンド同士で挟むようにして水素に圧力をかける Image Credit: Harvard University
予測から80年もの間、金属水素を作るための努力が続けられ、発見したという発表に大きな注目が集まっている理由は、世の中を大きく変えるかもしれない可能性が秘められているからである。
実は、金属水素は「超伝導」という状態を、室温(常温)の状態で示すと考えられている。
超伝導とは、物質の電気抵抗がゼロになる、つまりその物質の中を流れる電気が、何にも妨げられず流れ続ける現象のことで、1911年に発見された。現在でも超伝導物質はいくつか存在するものの、どれもきわめて低い温度にまで冷却しなければ超伝導にならないため、使用する際には常に液体ヘリウムや液体窒素などで冷やし続けなければならない。
たとえば2027年に東京と名古屋間で開通が予定されているリニア中央新幹線も、「超伝導リニア」と呼ばれることもあることからわかるように超伝導を使うが、このような理由から液体ヘリウムで冷却する必要がある。ヘリウムは高価で、冷却し続けるのにも電気を使うため、コストを押し上げる要因の一つになっている。
しかし、もし室温でも、つまり冷やし続けなくても超伝導になる物質ができれば、リニアの開発費や運用費を大きく削減することができるかもしれない(ただし、室温ではないものの、液体ヘリウムを使うほどではない比較的高い温度で超伝導になる物質は見つかっており、実験が行われている)。
また、発電所から各家庭などへ電気を送る送電線も、現在は作られた電力のうち何%かが、電線自身の電気抵抗のせいで失われているが、室温超伝導の物質で電線を造ることができれば、無駄なく電気を送ることができるようになる。
さらに、電気を貯め続けるエネルギー貯蔵システムや、電気自動車やスーパー・コンピューター、MRIなど、あらゆる分野への応用が考えられ、その価値は計り知れない。
また、金属水素そのものをエネルギー源として使うことも考えられている。生成した金属水素がふたたび金属分子になるとき、莫大なエネルギーが放出されると考えられており、その量はTNT火薬の50倍にもなるという。
もしこのエネルギーをロケットに使うと、現在実用化されているロケットよりも2倍から4倍も効率を上げることができ、地球を回る軌道から、月や他の惑星へも楽に行ける、夢のようなロケットが造れるかもしれないと期待されている。