ヘリウムの圧力容器を液体酸素の中に沈めたり、炭素繊維で軽量化したりといったことは他のロケットでも行われているが、その両方、つまり「炭素繊維を使った圧力容器を液体酸素の中に沈める」という手法を採用したのは、ファルコン9が初めてだった。
他のロケットで使われなかったのには、技術的に難しいことや、まさに今回のような出火につながることがあるといった事情があるが、それさえ解決できれば機体を軽くできるなどの利点があるため、スペースXはあえてこの難しい技術に挑戦した。
さらにファルコン9は、他のロケットよりも液体酸素やヘリウムの温度をさらに下げて使っていた。温度を下げれば下げるほど密度が高くなるため、同じ大きさのタンクでもよりたくさん積め、性能が上がるという利点がある。
アルミニウムと炭素繊維の二重構造になったタンクの一例。ファルコン9に使われているものとは別物だが、基本的な造りは同じである。左側は構造が見えるようにカットしてある Image Credit: NASA
また、冷やして液体にした酸素は、すぐに気体になって逃げてしまうため、打ち上げ直前まで継ぎ足し続けなければならず、そのぶん無駄になる。そこでファルコン9では、打ち上げの直前に一気に詰め込むことで、このムダを省く、という方法を取っていた。
しかし一方で、ちょうどガラスのコップに熱湯を注ぐと割れるように、急激な熱の変化を加えると機体や部品が壊れる危険もある。今回の事故でも、冷やしすぎたヘリウムのせいで、圧力容器の周囲にある液体酸素がさらに冷やされて固体の酸素になってしまい、事故を起こしやすくした、と分析されている。
もちろんスペースXは、事前に検討や試験を重ねて「大丈夫」と判断したのだろうが、結果的にはそれが不十分だったということになる。
この事故を受けて、スペースXは今後、ロケットに積み込むヘリウムの温度を上げるなど、運用方法を変えて対処するとしている。また、いずれは圧力容器の設計そのものを変えて、これまでどおりの低い温度のヘリウムを使って打ち上げられるようにする、としている。