物質的に豊かになった時代の、「幸せな老後」のロールモデル
津端さん夫婦の庭にはプロペラ機を模した風車が回る。(C)東海テレビ放送
そんな津端さん夫婦の暮らしぶりは一見、スローライフの典型のようにも見える。しかしそれは時間の積み重ねの中でたどり着いた生き方だった。庭にはプロペラ機を模した風車が回るが、修一さんは戦時中、技術者として厚木飛行場に近い旧海軍工廠で勤務。台湾から来た少年徴用工と寝起きをともにしながら、飛行機の組み立てに従事していた。
また、家族総出の餅つきの日には、日本海海戦の史実にならい「家族は奮励努力せよ」との意味を込めて庭に「Z旗」を掲げた。戦争体験については多くを話さなかったという修一さんだが、伏原さんはその心中を次のように推し量る。
「修一さん自身は一貫して『世の中を良くしたい』と思い続けていたのではないか。それは具体的には、戦時中は飛行機を作ることで、戦後は良質な住宅をつくることだった。やがて世の中が物質的に豊かになる中、家そのものよりも『暮らしをどう充実させるのか』ということに関心が移っていったのではないかと思います」
ものの豊かさや便利さを高度に達成したはずの日本だが、一方で人生の幸福度は高まっただろうか。例えば年を重ねることに対しては、「下流老人」という言葉が代表だが、なかなか「幸せな老後」をイメージしにくい。富の配分が十分機能していないことに加えて、「幸せな老後」のロールモデルが世の中に見当たらないことも大きく影響してはいないだろうか。
本作品はそうした現状に一石を投じようとしているのかも知れない。テレビ放映時には小学生からも「津端さんのようになりたい」と感想が寄せられたそうだ。
【人生フルーツ公式サイト】
http://life-is-fruity.com/
<取材・文・撮影/斉藤円華>