1万人を面談した現役産業医が指摘する「経営者と社員のための長時間労働対策」3つの処方箋

会社の意思決定と表明

 1つ目の処方箋は、会社が本気でやる気になることです。本気で長時間労働対策を行うのであれば、会社の意思決定とその表明は、外すことはできないと考えます。長時間労働対策は、実は会社が本気でやる気になれば可能です。  工場労働者等(いわゆるブルーカラー)やシフト勤務労働者が多い職場においては、会社がしっかりと労働者の勤務時間を配慮したシフトを組めばいいだけです。ファミレスや牛丼チェーン店が、24時間・深夜営業をやめたニュースがありましたが、諸事情は知りませんが、これに該当する部分もあったことと推測します。同様に、工場の生産ラインだって、ボタン一つで止めることはできるのです。  オフィス労働者(いわゆるホワイトカラー)が多い職場においては、すでに職場で利用されているITをこの方向にも活用すべきです。昨今、ほとんどのホワイトカラーはパソコンやスマホ・タブレットで仕事をしています。それであれば、1日にログインできる時間を初期設定で定めたり、アプリの稼働時間の上限やインターバルを設ければいいだけです。いずれもすでに利用しているITに取り組むだけであり、技術的には可能なことばかりです。ただ、みんなやっていないだけです。  働く人が足りない場合、生産ラインを止めるか、社員に過重労働をさせるかの選択は会社が握っています。売上を優先するのか、社員の健康を優先するのか、企業としてどちらの選択をするのか、うやむやにすることなく、隠さずに企業としての方針(価値観)を表明することも大切でしょう。  社員の健康よりも売上が大切と考えるのであれば、それもその会社の価値観です。それでいい人たちが集まればいいですし、人が集まらなければそれまでの話です。売上よりも社員の健康が大切と考える企業文化の元では、当然のように社員もその文化を大切にしています。夜間などに会議は設定していませんし、仕事を受注するときには土日は働かない計算で日程を組みます。 「これ以上は、土日になるのでできません(もう少し時間がかかります)」 「その時間は帰宅しているので、会議に出られません(家から電話会議には出ない)」  このようなことを、対内的だけでなく対外的にもしっかり言えているのです。確かに最初は売上が減るかもしれません。しかし、労働時間の短縮が社員のやる気を高めた結果、労働生産性が高まり、売上が伸びた会社の事例も多々あります。  意識改革を唱えて号令をかけるだけではなく、会社としての本心をまずは認めてみてはいかがでしょうか。長時間労働をしなくても結果を出すという意思、結果を出すために”時間”に投資しないという意思、そのためには一時的な売上減少を恐れず実行する意思。企業の本気が問われていると思います。
次のページ
人事評価に生産性向上を
1
2
3
4
◆一般社団法人 日本ストレスチェック協会のホームページフェイスブック
◆『産業医 武神健之』公式ホームページフェイスブック
◆『医学博士 武神健之』公式ホームページYouTube
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会