「こうのとり」6号機から伸びるテザー Image Credit: JAXA/NASA
そこで今回「こうのとり」6号機で実験が行われるKITEでは、テザー(ワイヤー)を使う、まったく新しい方法が試験される。
まず補給任務を終え、国際宇宙ステーションから分離した「こうのとり」6号機から、長さ700mのテザーを伸ばす。そしてそのテザーに電気を流すと、地球がもつ磁力(地磁気)との影響でローレンツ力という力が発生し、「こうのとり」を進行方向とは反対の方向に、つまりブレーキをかけるように作用する。
原理は有名な「フレミングの左手の法則」と同じで、これによりデブリの速度を落とし、早期に地球の大気圏に落とすことができる。ただし今回はあくまで試験なので、「こうのとり」を落とすことまではせず、これほどの長さのテザーが伸ばせるのか、振動は制御できるのか、そして本当に軌道を変えるほどの力を出すことができるのか、といったデータを取る。
テザーに電流を流すと、進行方向と反対に力が加わる様子 Image Credit: JAXA
この仕組みは、エンジンを噴射するほど大きな力は出せないものの、装置をシンプルに、また安価に作ることができる。たとえばデブリへの装着も、とにかくデブリにくっつけば良いので、フックのようなもので引っ掛けたり、テザーをぐるぐる巻きにしたりといった簡単な仕組みで良い。また、エンジンのような装置は不要で、ただテザーに電気を流すだけで良いという利点も大きい。
もし試験がうまくいけば、将来的にこのテザーをいくつも持った衛星を打ち上げ、処分したいデブリに近付き装着。また次のデブリに移動して装着……といった運用ができるかもしれない。
この他にも、新しい仕組みの太陽電池を搭載しての試験や、国内外の大学などが開発した超小型衛星をステーションに送り届けたりなど、「こうのとり」6号機は数多くの重要な使命を帯びている。無事にミッションを終え、宇宙開発と私たちの未来につながる、元気な赤ちゃんを運んできてくれることを願いたい。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
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【参考】
・JAXA | H-IIBロケット6号機による宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機(HTV6)の打上げ結果について(
http://www.jaxa.jp/press/2016/12/20161210_h2bf6_j.html)
・宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機(HTV6)【ミッションプレスキット】(
http://fanfun.jaxa.jp/countdown/htv6/files/htv6_press_kit.pdf)
・GSユアサのリチウムイオン電池が国際宇宙ステーションに搭載 ~2016年12月から輸送を開始~|ニュースリリース|GSユアサ(
http://www.gs-yuasa.com/jp/newsrelease/article.php?ucode=gs161116032617_315)
・HTV搭載導電性テザーの実証実験(KITE)の詳細:研究開発部門(
http://www.ard.jaxa.jp/research/kite/kite-details.html)
・HTV搭載導電性テザー実証実験(KITE:カイト) – YouTube(
https://www.youtube.com/watch?v=AIBXnRz5-7g&feature=youtu.be)