もう一つの「東芝事件」――手を挙げない“高ストレス者”に自己責任を求められるのか?
2016.09.25
厚生労働省の調査では、実際に、強い不安・ストレス・悩みがあるときに、人に相談することができる人は約75%で、4人に1人はそのようなときに人に相談できないとのことです。相談した75%のうち、約9割は相談することによって問題が解決したり、解決しなくてもラクになったと答えています。
相談さえすれば9割はラクになるのに、4人に1人は相談することもできない、手を上げられないというのが実情です。この「4人に1人の人たちに手を上げてもらえるようにするためには、どうしたらいいのか。4人に1人をどうしたら減らせるのか」というのが近年、産業医の私が考えている課題です。
答えは簡単には見つかりそうもありません。しかし、考えなくては答えにも近づけないと思います。
東芝事件で最高裁が明記したことは、「メンタルヘルスの問題は、本人の申告なくても、周りが察知するレベルであれば、会社は対処しなくてはならない(安全配慮義務を負う)」ということでした。そうであれば、会社としてやるべきことは、規則やルールの変更や徹底ではなく、「メンタルヘルスの話題をタブーとせず、会社で話しやすい雰囲気を作る」ことではないでしょうか。
ストレスチェックテストの結果、高ストレス者となった人のために、自分の結果を開示する面接指導だけでなく、開示しなくてもストレスの相談をできる方法を設けることは、会社に開示しなくてもストレスについて安心して話す場があるという安心感、そして早期の対処、悪化の防止につながります。
ストレスチェック制度の開始が、日本のメンタルヘルス不調者の数を減らすか否かは誰にもわかりません。わかっていることは、今後は誰でも年に1回は、自分のストレスやメンタルヘルスについて考える「きっかけ」があるということです。 この“きっかけ”を、会社のメンタルヘルスに対する方針の改善のために、上手に使うことが今、会社には求められています。
ストレスチェック制度というこの「きっかけ」をどのように利用するのかが、会社の人事だけでなく、メンタルヘルスの最前線の現場に関わる職種全員への課題だと思います。
<TEXT/武神健之>
【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある
◆一般社団法人 日本ストレスチェック協会のホームページとフェイスブック
◆『産業医 武神健之』公式ホームページとフェイスブック
◆『医学博士 武神健之』公式ホームページとYouTube
規制やルール変更では変わらない
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