この事件の概要は、うつ病で休職していた社員を解雇した東芝に対し、業務が原因で病気になった社員の解雇は無効であると確定したというものです。裁判のなかで、会社側が「元社員が自分の精神科通院や病気のことを会社に言わなかったので対応が取れなかった」と主張したため、この主張が認められるのか否か、裁判の行方がどうなるか、私たち産業医や労働安全衛生業務関係者(人事関係者)からは注目された裁判でした。事件の詳細についての日経新聞記事はこちらです(参照:
日経2014/3/25付記事)
この裁判では、該当社員は時間外労働を伴うそれなりに難易度の高い業務従事していたこと、精神的な体調不良について医療は受けていたが会社には開示していなかったこと、同僚から見ても調子は良くなさそうで、上司にも体調不良については伝えていた(病気については伝えていない)ことなどが、客観的事実として認められていました。
⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=111107
裁判は最高裁まで争われました。最高裁では、以下の点が明記されました。
1.使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている
2.労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合は、
心の健康のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである
3.
メンタルヘルスに関する情報は申告し難いことを前提とし、労働者の体調悪化を察知し得る段階では
労働者側から申告がなくとも受診勧奨等した上で、それに応じて業務軽減等必要な対応を図るべきである
まとめますと、心の病気に関することは体の病気以上に会社には開示しづらい内容だから、会社はそのつもりで労働者の健康に十分な注意を払い対処する義務を負うということです。この内容は、「過労死」「安全配慮義務」という言葉の意味を決定付けた”電通事件”と同じように、”東芝事件”として、後世に語られるものとなるでしょう。